『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』シオドア・スタージョン/若島正編(河出書房奇想コレクション)★★★☆☆

「帰り道」(A Way Home,1953)★★★☆☆
 ――家出をしたとき、ポールはだれにもずっと会わなかったし、なにも目にしなかった。しばらくして、車がやってくるのを見た。運転手は大柄な男だった。「やあ。ここは懐しのタウンシップ・ロードかい?」「ええ」「だと思った。ふるさとは二十年ぶりなんだ」

 少年の淡い空想を描いた青春小説。SFでもないしクセもないのだけれど、解説を読むとなるほどスタージョンらしさに溢れているらしい。
 

「午砲」(Noon Gun,1963)★★★★☆
 ――ひっそりと並んで歩くマウシーを見おろしながら、ジョーは思った。おれと同じように、おまえも二級品。店はたてこんでいた。マウシーが席を立った。向かいに坐った娘が、じっと彼を見つめている。早くマウシーが戻ってくればいいのに。

 午砲とは一種の通過儀礼だと捉えれば、次の作品とは「大人」つながりという収録順序の妙なのですね。スタージョンに「ブルドーザー」と書かれると「殺人ブルドーザー」を思い出してしまってちょっと微苦笑してしまった(^^;。スタージョンはマッチョと頭の空っぽな女に何かあるらしい。
 

「必要」(Need,1960)★★★★★
 ――「車だ、車を出すんだよ!」ゴーウィングは声をはりあげた。Gノートは車を出した。「あいつだ。やつをあの車に乗せるな」男が停めかけた車に割り込み、Gノートは縁石に車を停めた。「乗せてもらえないだろうか」と、男はいった。「どこへでも参りますよ。百ドルだ」

 ようやくスタージョンらしくクセのある作品が登場しました。明らかに普通じゃない金儲けに始まったかと思えば、ピントは夫婦の愛情に移り、かと思えば超能力者の悲哀から、やがて「必要」を埋めるみんなの輪へと結実します。焦点を一人に絞るんじゃなくて、登場人物全員のことを真摯に描いてその全員を幸せにしようという、良くも悪くも途方もない小説です。
 

「解除反応」(Abreaction,1948)★★☆☆☆
 ――おれは大きなブルドーザーの運転席に坐っていた。そして、思い出そうとしていた。ちくしょうめ、思い出せない――待てよ、おれは自分の名前を忘れちまっていた!

 SF的な理屈をつけた臨死体験自己啓発的な臨死体験談が嫌いなわたしにとっては、おぞましい短篇だった。
 

「火星人と脳なし」(The Martian and the Moron,1949)★★★☆☆
 ――父さんは地下室に降りていった。「何を作るつもりなのかな、母さん?」「ラジオで火星の電波を受信しようとしている人たちがいるみたいね」さて、この物語のクライマックスをお話ししたいところだが、残念ながらそういうものは一つもなかった。さあ、次にコーディーリアのことをお話ししよう。

 くだらない発想でも軽めに書かずに丁寧に(ねちねちと)書く。そういう点で、「必要」と同じく何だか話の先が見えないまま読み進めていて気づいたらSFでした、という話。わたしの場合、こういう書き方にスタージョンらしさを感じる。
 

「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」(The [Widget], the [Wadget], and Boff,1955)★★★☆☆
 ――超反射〈シナプス・ベータ・サブ16〉の調査に地球にやってきた探検隊は、ある下宿に人類のサンプルを集めて観察を始めるが、彼らはみなそれぞれに問題を抱えていて……。(帯うらあらすじより)

 地球人の反射神経に興味を持った宇宙人が観察・実験を行うことで……という筋だけなら面白い。でも話の都合上、描かれるのが退屈でつまんない人たちの退屈でつまんない日常と悩みなので、読み通すのがとてもしんどかった。
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