『グリーン・レクイエム/緑幻想』新井素子(創元SF文庫)★★★☆☆

 松尾たいこのカバー画も素敵な、もはや古典の初カップリング。

グリーン・レクイエム(1980)★★★☆☆
 ――子供の頃の記憶。まよいこんだ夕刻の山道。ピアノの音を頼りに辿りついた草原の先には古びた洋館と温室があり、そこで彼は“緑色の髪をした少女”に出会った――。彼は長じて植物学者への道を歩み始めた。そして彼女との再会は、彼らを思いもよらない悲劇へと導く。(裏表紙あらすじより)

 70〜80年代風あたし文体が鼻について仕方がない。例えば舞城王太郎町田康も、三十年後に読めばこんな印象を持ってしまうのだろうか。松崎教授のキャラクターがあまりにご都合主義すぎてさすがについていけなかった。こんな思い込みだけで突っ走る人、いないよう……。デフォルメされ過ぎてほとんどギャグである。無理にでも狩る⇔狩られるという図式にしたかったんだろうけど。せっかくの淡くて切ない感じや緊張感とスケール感のある展開や緑の髪の少女という設定も、(かなり粗めの)お気楽ファンタジーになってしまった。
 

緑幻想(1990)★★★☆☆
 ――三沢、あるいは岡田明日香。それが、現在、日本国政府の最大機密事項になっている、この死体の名前だった。何よりも異様なのは、その髪の色――鮮やかな、深緑色だった……。事態をここまでややこしくしたのは、松崎教授の認識不足だった。三沢良介は姿を消した。嶋村信彦の姿も、この時点で消えていたのである。夢子と拓も見つからない。

 前作の欠点(批判?)を受けて書かれたような文章から幕を開ける。作家としての責任ある姿勢に、ふむふむと期待しながら読み進める。しかし――である。途中からみんなが植物と会話し始めるのだけれど、現実には聞けない植物の声(意見)というものをこんなふうに、人間である作者が勝手に捏造してしまうというのは、この作品のテーマからいって避けるべきだったのでは? 植物の声を具体的には表には出さずにに全篇書きあげてほしかったなあ。理屈めいた部分があまりうまく書けていないので、エンタメファンタジーとしてきりりと締まっている前作の方がいい。
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