『ぶち猫 コックリル警部の事件簿』クリスチアナ・ブランド(論創社)★★★☆☆

 寄せ集めの落穂拾いかと思ったら違った。粒ぞろいの傑作集というわけでもないが。

「コックリル警部」(Inspector Cockrill)★★★☆☆
 ――二千語でお願いしますということだ。たった二千語で書けというのだろうか? わたしが心血を注いで作り上げたコックリル警部のことを、一パイント入りの壺にぞんざいに押し込めと?

 著者がコックリルについて記したエッセイ。あんまり素直じゃない書きぶり(^^)。
 

「最後の短編」(The Last Short Story)★★★☆☆
 ――パムと結婚したかった(と供述書は述べている)。だが金がなかった。こうなったらエレン叔母さんを殺すしかない。そしていとこのピーターに罪をなすりつける。パムもその計画に加担していた。とはいえ、叔母さん殺しそのものには加担していない。

 作家である容疑者が供述書を短篇形式で書くという、お遊びにもほどがある倒叙ミステリ(^^;。倒叙ものとしては肝心要の「唯一のミス」を明らかにする過程が、原稿枚数の都合からなのかあまりに説明的なのが瑕。
 

「遠い親戚」(The Kissing Cousin)★★★☆☆
 ――フランカはドアに鍵を差し込んだ。家じゅうめちゃめちゃだった。アデラおばさんが頭を殴られていた。一つだけしかない鍵はフランカが持っていた。「あなたは遺産相続人ですね」コックリル警部は言った。

 掌編なので犯人当てとしてはあまりにも登場人物が少なすぎるし、ヒントやきっかけもブランドにしてはちょっとなおざりだなあという印象。最後の謎は巧いけどね。
 

「ロッキング・チェア」(The Rocking Chair)★★★☆☆
 ――もう十五年前の話だ。居間で三人の女性が死んでいた。二人の物静かな姉妹のことは誰もが知っていた。そして、ひとりの女性については誰も知らなかった。今に至るまで。けれど、客は知っていた。そして、今ごろになって公爵夫人に相談にきたのだ。

 ブランドらしい複数解答が楽しめるものの、初めから机上の推理ごっこみたいなところがあるので、推理マニア向けなところがある。三人の女が射殺されていた。傍らに拳銃。指紋は採取不可。果たして誰が誰を殺し、自殺したのか。という、クリスティが得意そうな謎が魅力的。
 

「屋根の上の男」(The Man on the Roof)★★★☆☆
 ――村の派出所を預かるクラム巡査部長は、コックリル警部に電話した。「公爵なんですがね、警部。これから自殺すると、派出所に電話をよこしまして」現場は銀世界で、巡査のもの以外足跡は一つもなかった。しじゅう自殺を言いだす癖のあった公爵が、とうとうやってしまったらしい。

 これも複数解答もの。長さがある分ミステリとしての結構を備えている。とはいうものの、憤っているわりにはコックリル自身、事件を解決するというよりは事件の行方を楽しんでいる感があって、その遊戯精神みたいなところは「ロッキング・チェア」と共通する。
 

「アレバイ」(Alleybi)★★★☆☆
 ――コックリル警部はグラスをカウンターごしに押しやった。「アレバイがなかったてェ、なんれらァ?」チャールズワース警部はじろりと相手を見やった。やれやれ。もう一度くりかえした。つまり、アリバイならたしかにあったのだと。

 ショート・ショート。オチが解決にもなっている(結末で真相が明かされる、というだけでなく、その真相がショート・ショートとしてのオチにもなっている)点できっちりまとまった掌編。
 

「ぶち猫」(The Spotted Cat)★★★★☆
 ――ティナはいかなる罪にも問われなかった。強い薬というバージ医師の指示を、多くの薬と誤解したとみなされたのだ。だがコックリルだけは違った。ティナの夫が生前に、ぶち猫という不可解な言葉と、愛人のいるティナに殺されるというメモを残していたのだ。そのときの弁護人が現在の夫グレアムだった。

 質量ともに本書のベスト。ブランドの意地悪さが炸裂した戯曲。完全犯罪というにはちょっと弱いけれど、こういう展開に持っていこうとする嫌らしさが堪能できます。トリッキーかつエグイ、著者の持ち味の出た作品です。

 山口雅也の解説は、ファンの愛情たっぷりベタぼめ解説でありながら同時にミステリのツボを押さえた解説にもなっていて、ちょっと珍しいタイプの解説だと思う。
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