2007年刊行。
岸田國士の戯曲をコラージュした長篇戯曲。何といってもタイトルがいいし、カバー装画もいい。
原作も読みたくなってきます。
基本になってるのは、隣の庭(=隣家の奥さん)はよく見えたり、新婚旅行がきっかけで噴出する旦那への文句だったり、同棲中の弟を訪れる厳しい兄だったり、金持と貧乏になった元同級生の機微だったり、飼い犬を巡るご近所トラブルだったりと、他人とのコミュニケーションの齟齬とか難しさなりおかしさみたいなものです。
それが各編をコラージュすることで群像劇としての賑わいが増し、人間ドラマの宝庫と化しています。
ご近所ものというか長屋ものというか、犬も歩けば騒ぎに当たる、石を投げればどたばたに当たる、人はそんな感じの世間さまで生きてゆかねばならぬのでした。
岸田戯曲の素晴らしさは、あっさりとした口当たりの、語られた時に美しい日本語。短い日常語が繰りかえされるその内容は、出てくる単語のレトロ感をのぞけば、最近に書かれたものと錯覚しそう。クスッとさせられるユーモア、そこはかとないエロス、じわりと広がるシニカルさまで、きわめてビビッドな現代性を感じさせる。
本作は、彼の短篇戯曲を、鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチが、ある町内の出来事としてコラージュ(構成・潤色)! ベースとなるのは─英語教師の家の釤躾釤をめぐって会議が展開してゆく「犬は鎖に繋ぐべからず」。小住宅の庭越しに不倫を匂い立たせる「隣の花」。成瀬巳喜男が映画化にあたって表題とした「驟雨」。菊池寛の『父帰る』の批評としても有名な「ここに弟あり」。人生に成功した男と失敗した男が、それぞれの妻同伴のうえデパートの屋上にて再会する「屋上庭園」。夫婦生活の機微を描きあげる「紙風船」。ありふれた朝食の風景にシュールなひと時が入り込む「ぶらんこ」。
いずれも絶妙な会話が展開する極上の戯曲を、ひとつの世界の作品としてご堪能あれ。(白水社ホームページ紹介文より)
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