現実の有栖川宮事件に想を得た、おままごとのようなピカレスクです。
宮家を騙る、なんていう法螺話、本人たちが楽しんでなくっては起こるまい。とでも言いたそう。目的はお金でも詐欺でもなく、だってこういうの楽しいでしょ?といわんばかりの奔放ぶりです。
「お月さん」で始まり「安間安間」(マイヤー・マイヤーとは違ってちゃんと理由があるのがいい)を経て、歴代天皇の名を三人で機械的に唱え出すあたりで、すっかりこの人たちの虜になってしまった。何なんだこの駄目人間っぷりは(^^)。(※ちなみに、「お月さん」と「安間安間」はどちらも人名なのです)。
夢とも現ともつかない場面がちょくちょく挟み込まれたかと思えば、とつぜん猫視点(?)の段落があったり、かと思えばお婆ちゃんの尿漏れ問題がピッピッピッと挟まったり、あるいは用紙は松竹梅じゃなく鶴亀の鶴にしようと設備投資にも余念がなかったり。
夢も現実も妄想も選ったりせずに受け入れちゃってるセンスがいい。描かれてはいないけれど、この人たちはきっと妖精や妖怪たちと一緒に住んでいる。そんな気にさせられる。
お妾さんという言葉自体がなんだか懐かしい。お婆ちゃんの性がいたってなごやかに描かれるのも、階段で行われるセックスのどこかアングラ的なエロティシズムも、まぎれもなく久世作品のものです。美人なのにちょっと(かなり)危なっかしい華ちゃんも、明らかに昭和の人間です。テレビのなかだけにいた、昭和のフーテン娘。生勃りの安間にいたっては久世作品の定番です。
しがらみがない、と言えばいいのか、実にあっけらかんとした三人の計画は、それはもう驚くほどあっけらかんとした結末を迎えます。モデル小説なだけに、現実を突き抜け人を食ったようなこの顛末が、いっそう効果的でした。
人生は〈配役〉の問題だ。殿様面の大部屋俳優・安間安間と、馬鹿で酒乱で美貌の三十女・華ちゃん。二人を拾った老女〈川獺のお月さん〉は、彼等に王朝の衣裳を着せ、ニセ華族さまの結婚でひと儲けをたくらむが……。実在の事件を題材に、可笑しくて切ない人間模様を絢爛豪華な筆致で描き出す、久世光彦最後の小説。(カバー裏あらすじより)
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