『島田荘司 very best 10』島田荘司(講談社BOX)★★★☆☆

 チープさには定評のある講談社BOXだけど、こういうのならありかな、と思いました。この分厚さでパステルな真っ黄色と真っ青の組み合わせだと、チープさが活かされてます。チープなのには変わりないんだけどさ。

 読者セレクトが「数字錠」「糸ノコとジグザグ」「疾走する死者」「ある騎士の物語」「最後のディナー」、著者セレクトが「大根奇聞」「暗闇団子」「耳の光る児」「傘を折る女」「山手の幽霊」の計十篇。著者の一言コメント付。

 ラインナップを見ると、ミステリ読者向けと腐女子向けが半々といったところかな。ミステリ読者としては悲しいけれど、これが現在の島田荘司ファン層を忠実に反映したものなんだろうな。よく言えば目配りが利いている……のかな?

 改めて読んでみると「数字錠」は今の気の抜けた〈泣かせもの〉とは違ってテンポもいいしちゃんとミステリだった。というか昔のは基本的にテンポがいい。「糸ノコ」や「疾走する死者」なんてすごいスピード感です。ここらへんは傑作だなー。

 「ある騎士」は島荘の浪花節と(ある種の)女嫌いが露骨に炸裂した作品。どうしても好きになれない。本格ミステリばかりのなかに「最後のディナー」みたいなのが一篇くらい収録されていると、雰囲気も変わっていいんだけど、近年の島荘はこんなのばっかりだからうんざりなんだよなあ。。。

 けっこう新しめの「耳の光る児」や「傘を折る女」も収録されてて、これはさすがに読み返さなかった(ついこないだ読んだばかりだもの)。唯一の非御手洗もの「暗闇団子」、泣かせ系です。個人的にはもっとほかにいい非御手洗ものがあるだろうと思うんだけれど、これは好き嫌いだからしょうがないか。

 「大根奇聞」を初めて読んだとき、登場人物が作中テクストの真実性の有無を棚上げにして、すべて丸飲みして謎だなんだと騒いでいるのが納得いかなかった。近年の島荘作品は大なり小なりこんな欠点がある。『眩暈』のころの論理性はどうした! 今回はそういうものだと理解したうえで読み返したわけだけれど、やはりそれほどの作品とは思えない。

 もうまともな島田ミステリは読めないのかな、と思い始めたころに、御手洗が復活してくれた作品が「山手の幽霊」でした。当時読んだ感想は、大傑作ではないけれど復活作としてはまずまずかな、というもの。読み返してみると、トリックはともかく往時のテンポが完全に復活しているのが嬉しい。
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