『山本周五郎探偵小説全集 別巻 時代伝奇小説』末國善己編(作品社)★★★☆☆

 時代伝奇小説とはあるけれど、これは時代小説&伝奇小説という意味であるらしい。

「小法師の勝ちだ」★★★☆☆
 ――将軍家より預かっていた家宝が盗まれた。岡っ引きの息子ばか弥太は現場を通りかかるが……。

 遠山の金さんとか大岡越前パターンなんだけど、子ども向けに子どもを主役にしている結果、期せずして「周りの目を欺く」という効果がいっそう強まっているところが興味深い。
 

「怪異生首の辻」★★★☆☆
 ――辻で人が斬られる事件が相次いでいた。下手人の姿は見えず、生首だけが浮いていた……。

 意外なことに、小法師ものの続編だった。編者も書いているように、不可能犯罪に必然性がない。
 

「斬奸必殺陣」★★★☆☆
 ――弥十郎家が襲われた。父は討ち死に、妹早苗は父から託された手筐を持って逃げるが……。

 前半はそれなりにストーリーがあったのだけれど、後半はただただチャンバラ、しかも書き飛ばしてるので尻すぼみにもほどがある。
 

「誉の競矢」★★★★☆
 ――伊達政宗が鷹狩りをしていると、見事な弓矢の腕前の少女に出会った。政宗は競矢を申しつけるが……。

 伊達政宗とかトリックとか主従愛とか親子愛とか構成とかけっこう盛り沢山なのにコンパクトにまとまった好篇。
 

「鳥刺おくめ」★★★☆☆
 ――おくめが野山を駆けまわり鳥刺をしていたところ、悪党の鬼鞍の蚰蜒が農家の主に何事か言い含めていた。

 なんか、真相を見抜く証拠が見たまんま過ぎて「いいのか?」と思ってしまうが、その後の展開はミステリ的。
 

「歔欷く仁王像」★★★★☆
 ――清吉が店の娘お通とかくれんぼをして鎧に隠れていたところ、番頭と島津家用人の謀を聞いてしまった。

 大岡越前もの。それを表ではなく裏から書くとでもいえばいいのか、そのおかげでミステリ的な効果をあげることに成功してます。
 

和蘭人形」★★★☆☆
 ――殿が病に臥せっている飛騨守家では、水面下で跡目争いが進行していた。飛騨守の遺書を届ける役目を仰せつかった数馬は、役目途中で何者かに襲われる。

 お家騒動を少年の勇気と忠誠・少女の機転で乗り切る、いかにも当時の少年少女ものらしい時代小説。
 

「身代り金之助」★★★☆☆
 ――優れた武士・与右衛門の息子・慶太郎はぐずで臆病な駄目息子だった。今も剣術の相手をしていた郎等の子・金之助に当たり散らしていた。

 なんだか本人たちのあずかり知らないところで勝手にものごとが進行していくみたいな展開に違和感がある。
 

「悪龍窟秘譚」★★★★☆
 ――武田家再興のため秘法軍書を探し魔神らと戦う少年剣士たち。(帯惹句)

 本書唯一の伝奇小説。未完にみせかけるのが伝奇小説の常道なのか。初めて知った。なるほどなあ。ゴリラとか河童とか魔物とか妖女とか忍術とか、伝奇っぽさがこれでもかというくらいに詰め込まれてます。
 

「南海日本城」★★★★☆
 ――老中を攫った海賊「海の狼」と共に南洋に向かう浪人と少女。(帯惹句)

 少年青年たちがお国のために奮闘する冒険もの。ただ、時代小説だからだろうか、他の巻収録の少年冒険もののようなお利口さんなモノローグ味は薄い。むしろ百合っぺの女心にけっこう筆が割かれてたり、海賊「海の狼」のアウトローなプライドとか、けっこう読ませる。
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