『福田善之1 真田風雲録』福田善之(ハヤカワ演劇文庫)★★★★★

 北村薫『謎のギャラリー』にも収録されているものを、そのまま底本にして再刊、しかも北村薫解説という、何だかわからない本である。まあ『謎ギャラ』は早くも絶版だというのもあるんだろうけど。

 ところで、解説で竹中半兵衛のことを当時は常識だったみたいに書いているけれど、真田十勇士は今もまだ常識なのかな。というのが気になった。

 さて内容はというと、主義や精神を振り回す武士たちに、戦争のでたらめさを感じることもできるだろうし、1962年という発表年を考えればその後吹き荒れる学生運動の嘘を先取りしていると感じてみてもいいと思う。というかそういうメッセージ性を、何よりもまず強く感じてしまった。

 といってもちろん本書は思想を語るためだけの道具にはなっていませんが(というかそういう読み方をしてしまうわたしが思想に冒されてるのか)。まずは戦ものの面白さや、若者が見る夢の潔さがビンビン伝わってきます。浮浪人政権だなんて、夢というよりほとんど意味不明ですらあるものを信じていたり、いやそもそも何か変わると信じているところに、歴史を知る現代人から見るとそれだけですでに青春のもの悲しさみたいなものを感じてしまったりもするんですよね。

 武将たちのいずれ譲らぬ舌鋒戦そのものも駆引きとして読みごたえがあって面白いのですが、姿を隠し人の心を読む能力を持つ佐助が、客観的な解説者のような役割を果たして一言口を挟むことで、物語に一つ奥行が増えています。

 姿を隠し人の心を読む能力に、ストーリーテラーとしての役割だけではなく、能力ゆえの悲劇を背負わせているのも巧みというほかありません。これは同時に、霧隠才蔵を女にした意味の一つでもあるわけで、見事なくらいにきっちりはまっています。

 黒鉄ヒロシの漫画のような死に様にも、笑いと同時にものすごい毒がありました。カッコよく死にたいという最後のわがまますら、そんなのこれまでさんざん繕ってきた体面として許さない妥協のなさ。

 はたして主義や信念よりも、生き残ったものが強い(女が強い、ということではないと思う)、ということなのでしょうか、最後までパワフルな作品でした。

 ときは慶長19年、世にいう大坂の陣が始まった。劣勢の豊臣のもとに馳せ参じた浪人衆の中でも際立っていたのが、知将・真田幸村。手勢は若さと個性にあふれる十勇士。人心を読む猿飛佐助、実は女性の霧隠才蔵など、一風変わった面々ながら、みな熱い思いを胸に抱き、互いに絆を育んでいた。幸村の知略も冴え渡り、徳川勢を撃退せんと、いざ出陣! 舞台、映画、ドラマとして長年愛されてきた、勢いはじける傑作青春群像劇(カバー裏あらすじより)
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