第16回日本ファンタジー大賞受賞作。文庫化されました。
森見登美彦が帯に推薦文を寄せていますが、語り手のひねくれたダメダメぐだぐだ感には通ずるところがあるような気もします。
とはいってもあっちがアホアホ感全開の陽だとしたら、こちらは死ね死ね感ただようような陰の作品。内容云々よりも、この「陰気な明るさ」こそがカフカにもなぞらえられる所以じゃないかなあと思います。
もっとも奇観を呈しているのはやはり第一章「畳の兄」です。
妙なところが生々しく身体的かと思えば、話題がふっと飛んだり、異常な光景が当たり前のアクチュアリティで描かれていたり、感情がないようでいて時折ぞくっとするような恐怖や苛立ちが感じられたりと、針がぐらぐらと揺れているようでぴたっと止まる感じの世界観がたまりません。
だいたい陸魚って何でしょう。ゴキブリじゃないのか。でも「のろい」って書いてあるから違うか。その陸魚の匂いにしろ、電車内の姉さんのスカートの中にしろ、アレの口から流れる黄色い体液にしろ、生々しくて生臭い感じが作品のいたるところに顔を出してます。そのくせ全体的にはからっとしている。作中のたとえで言うなら、匂いや液体は「ねっとりしたもの」であり、それ以外は「便秘気味のもの」かな。嫌〜な感じなのに生理的嫌悪感はそれほどない。月光に照らされた姉の髪のシーンなんて、ぞわっと産毛が立つほどの怖さと美しさだし。
最後まで読めば理に落ちないでもないし、ある意味リアリティのある描写なのかもと思うと、ますます頭がくらくらします。
しかしこの作品の解説で秋葉原通り魔事件に触れているのって、通り魔犯人の弟もオカシイって(いや、まあ、そう思いますけど)いう理屈になっちゃわないかな。
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