著者自身の若いころを作品に反映させてしまったため、90年代が舞台なのにパソコンのない法律事務所、戦時中に書かれ当時の影が落ちているにもかかわらず、戦後だいぶ経ってから発表された『カーテン』。
自分の若いころを書いてしまう、というのは人情としてはわからないでもない。単なるミスなのか、時代設定を犠牲にしてまでもの思い入れなのかはわからないけれど。
クリスティの伝記などでは、自分の老後も子どもたちが困らないために『カーテン』『スリーピング・マーダー』を執筆した、と書かれてたような記憶があるのだけれど、はっきり戦時中の時代背景が描き込まれているのであれば、本書で紹介されているように、空襲によるもしものときの「遺作」的な意味合いの方が強かったのかもしれない、と思えてきます。
なかにはしょうもない「謎」もあるんだけれど、精読の面白さを伝えてくれる作品集でした。
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『現代小説38の謎』
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