John Sladek。
マニアというかディレッタントというか凝り性というか変な話ばっかり。
「古カスタードの秘密」柳下毅一郎訳(The Secret of Old Custard,1966)★★★★★
――アグネスは赤ちゃんが欲しいと願いつづけていたので、オーヴンの中に赤ん坊がいても別に驚かなかった。「見て! 赤ちゃんよ」「うへえ。どこで拾ったんだ?」
ふざけているようでいてきっちり辻褄が合っているような、これを計算で書いているのなら大げさじゃなく「天才」だと思うんだけど。
「超越のサンドイッチ」柳下毅一郎訳(The Transcendental Sandwich,1971)★★★☆☆
――「あなたに知識をさしあげます」とセールスマンらしきものが言った。その宇宙人がくれたのは、サンドイッチだった。
サンドイッチの正体は何か?というショート・ショート。
「ベストセラー」山形浩生訳(The Best-Sellar,1969)★★★★☆
――橋が流され島に閉じこめられた一同は、お互いの関係について、毎日一人が担当者となってその日の出来事を好きなように脚色して朗読することにした。
何が真実で何が嘘でという詮索も無意味なことに、一応すべてがフィクションという設定で、あげくには……(^_^;。
「アイオワ州ミルグローブの詩人たち」伊藤典夫訳(The Poets of Millgrove, Iowa,1966)★★★☆☆
――生まれ故郷に帰ることになった宇宙飛行士は……。
つまんねえ行事なんてくそっくらえだ!な感じはわかるんだけど、こういうつまんない持ちネタを披露する市長って実際にいそうな気もしてヤだな。。。
「最後のクジラバーガー」柳下毅一郎訳(The Last of the Whaleburgers,1984)★★★★☆
――仕事から帰ってきて、妻が他の男の腕に抱かれているのを見たとき、当然然るべき質問をした。「たしかに腕はあるが、持ち主の姿がないぞ」「説明できるわ」
解説を読んで初めてわかった。そんな話だったのか! オカルトにのめり込んで自らオカルト本を書いてしまうスラデックは、離婚後にこんな話を書いてしまうのだそうです。
「ピストン式」大森望訳(Machine Screw,1975)★★★★☆
――世界の交通問題を永遠に解決するためにマッド・サイエンティストが開発した恐るべき発明。秘密を知ったブラウン博士たちは、それを阻止しようと……。
こんなアホなの書くなよ(^^;、訳すなよ(^^;というバカバカしさ。人類の存続を賭けた(?)ド級のセックスなのだ。そもそもその発明で交通問題をどう解決しようとしたのかまったくわからない(^_^;。。。
「高速道路」山形浩生訳(The Interstate,1971)★★★☆☆
「悪への鉄槌、またはパスカル・ビジネススクール求職情報」若島正訳(The Hammer of Evil,1975)★★★★☆
――監獄の扉が開く。警戒が必要な理由は二つ。(a)ぶさいくな顔。(b)とにかく臭い。
論理で遊んだ(もてあそんだ?)論争ごっこ。こういう(方向性の間違った)一徹な話がスラデックは面白い。
「月の消失に関する説明」柳下毅一郎訳(An Explanation for the Moon,1982)★★★★☆
――わたしは発見した。月はオガム文字、かの古代ケルト人のアルファベットで書き表すことのできる数少ない英単語である。moon。
インチキ論理で証明される月の消失。論証過程自体がすでにもう「2を除けば正確かつ水ももらさぬ」というダメっぷり。
「神々の宇宙靴――考古学はくつがえされた」浅倉久志訳(Space Shoes of the Gods:An Archaeological Revelation,1974)★★★★☆
――なぜ多くの古代伝説が、燃えさかる車に乗って空を飛ぶ神々のことを語っているのか? なぜピラミッドは、水爆の爆風にも耐えられるほど堅固に作られているのか?
とんでも本のパロディ。ありもしない証拠からありもしない真実を見出してしまう、とんでも論理が冴えます。
「見えざる手によって」風見潤訳(By an Unknown Hand,1972)★★★☆☆
有栖川有栖の『本格ミステリー・ライブラリー』にも収録。サッカレイ・フィンもの。
「密室」大和田始訳(The Locked Room,1972)★★★☆☆
密室ミステリを読んだ名探偵が、過去の密室事件を振り返って……その過程が無駄に長い(^^;。
「息を切らして」浅倉久志訳(It Takes Your Breath Away,1974)★★★☆☆
――フィンが尾行しているのは、暗殺の情報を知っているらしい男だった。彼を保護するために、警察は一帯に張りこんでいる。あたりには大道芸人たちが行列していた。
サッカレイ・フィンもの。論理は優れているが現実味のかけらもないところが凄い。よくもまあこんな変な材料でミステリを書こうと思いつく。
「ゾイドたちの愛」柳下毅一郎訳(Love Among the Xoids,1984)
「おつぎのこびと」浅倉久志訳(The Next Dwarf,1979)★★★☆☆
宇宙人のカルチャーギャップ。
「血とショウガパン」柳下毅一郎訳(Blood and Gingerbread,1990)
「不在の友に」柳下毅一郎訳(Absent Friends,1984)★★★☆☆
「小熊座」柳下毅一郎訳(Ursa Minor,1983)★★★☆☆
「ホワイトハット」酒井昭伸訳(White Hat,1984)★★★★☆
――〈ライダー〉たちがやって来た。首すじに貼りついた虫けらが、人間の精神を乗っ取ってしまった。
宇宙人による侵略もの――かと思いきや、馬視点で書いた西部劇。でも視点人物は人間――という話でした。
「蒸気駆動の少年」柳下毅一郎訳(The Steam-Driven Boy,1972)★★★★☆
――暴虐な大統領を取り除くべく、タイム・パトロール隊は「過去」に蒸気駆動の少年ロボットを送りこむ。だが、とんでもない間違いが起こり――(帯紹介文より)
子ども時代の大統領を誘拐して、代わりに蒸気駆動の身代わりを置いてくるというところがアホアホしい。なぜ蒸気機関なのか。万一ばれたときのアナクロニズムを避けるためである。機械仕掛けの少年が存在すること自体がアナクロだということなんて無視した確信的なギャグがいいんです。
「教育用書籍の渡りに関する報告書」柳下毅一郎訳(A Report on the Migrations of Educational Materials,1968)★★★★☆
「おとんまたち全員集合!」浅倉久志訳(Calling All Gumdrops!,1983)★★★☆☆
「不安検出書(B式)」野口幸夫訳(Anxietal Register B,1969)★★★☆☆
――1.現在の姓名、フルネームを記入してください。2.出生時、または洗礼時のフルネームを。3.通称、略称、異名、あだななど……。
小説ではない。解説によれば、ほかにもこんなのばっかり書いているんだそうである。むしろそういうのばっかり訳してほしいな。煙草会社にまつわる架空の歴史と雑学『Wholly Smoke』とか、オカルト本『Arachne Rising』とか。
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