『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ/村上春樹訳(新潮社)

 『Breakfast at Tiffany's』Truman Capote,1958年。

ティファニーで朝食を(Breakfast at Tiffany's,1958)★★★★★
 ――名刺の住所は「旅行中」、かわいがっている捨て猫には名前をつけず、ハリウッドやニューヨークが与えるシンデレラの幸運をいともあっさりと拒絶して、ただ自由に野鳥のように飛翔する女ホリー・ゴライトリー。彼女をとりまく男たちとの愛と夢を綴り、原始の自由性を求める表題作新潮文庫カバー裏あらすじより)

 基本的に翻訳のあるものは翻訳を読むのですが、これは英語でしか読んだことがなかった。あんまりイメージが違わなかったのでほっとする。

 ホリー自身の魅力ばかりが印象に残っていたけれど、読み返してみると、けっこう安っぽいというかドラマチックというか、派手なエピソードに彩られてました。

 だいたい初登場シーンがアフリカの彫刻だもんなあ。ふつう回想シーンって、良き思い出にしんみりフェイドアウト……みたいな感じなのに、行方不明の手がかりが本人そっくりの木彫りというんじゃ、本気にしていいのかジョークなのかわかりません。

 何だこりゃと思いながら読んでいけば、風変わりどころじゃない女の子が出てきて、なるほどあの導入部は正しいんだとわかるんだけど。

 しかしそう考えると「ユニオシ」氏とかもわざと? 嘘っぽいホントを狙ってたりして。

 マグのことを「この女性を保護してやらねば」と表現している箇所があったけれど、エキセントリックで不安定で、ホリーこそまさにそういうタイプで、危なっかしくて思わず世話を焼いてしまいそう。女友達はマグしか登場しませんが、同性には嫌われてるのかな?

 空っぽの鳥籠、野生の鳥、だけど一人では生きられない。語り手と同じく、ホリーも落ち着き場所を見つけていてくれたらと願わずにはいられません。
 

「花盛りの家」(House of Flowers,1951)★★★★☆
 ――オティリーは、誰よりも幸福な娘であるはずだった。人々はその店をシャンゼリゼと呼んだ。ねえ、オティリー、あんたにご執心の男がいるよ。オティリーは青年と暮らすことにした。

 これは南部作家カポーティの色濃い、マジックリアリズム小説。嫁姑合戦が見物ですが、何より死んだ人間の存在をはっきりと目にし、都会から訪れた知り合いを夢だと思ってしまう主人公オティリーのフシギちゃんっぷりが強烈です。
 

「ダイアモンドのギター」(A Diamond Guitar,1950)★★★★☆
 ――ミスタ・シェーファーは囚人農場で一目置かれていた。あるとき新しい囚人がやって来た。宝石みたいなのがぴらぴらついたギターを持っていた。

 ダイヤモンドのギターってのがそもそも嘘っぱちで、その意味で実に見事に内容を表わしたタイトルだと思います。夢とかロマンとかって、裏を返せば現実から乖離したまやかしなのだ。
 

「クリスマスの思い出」(A Christmas Memory,1956)★★★☆☆
 ――僕は七歳で、彼女は六十を越している。僕らは無二の親友なのだ。彼女は僕をバディーと呼ぶ。「フルーツケーキの季節が来たよ! 荷車をもってきておくれよ」

 あれ? こんな話だったかな。記憶にあるよりも色褪せて見えた。それが正解なのかもしれませんが。少年のころの楽しい思い出というよりは、失った思い出という感じです。
 

 だけどいくらなんでも文庫化が早すぎます。これからは新潮社の名作新訳は文庫化を待つことにした方がいいですね。
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