『終わらない悪夢』ハーバート・ヴァン・サール編/金井美子訳(論創社ダーク・ファンタジー・コレクション8)★★★☆☆

 『The Sixth Pan Book of Horror Stories』Ed.Herbert Van Thal,1965年。

 ホラー・アンソロジー『パン・ブック』第六弾がまるごと翻訳されました。マイナー作家勢揃いなので、当たりがあると嬉しい(凡作も多いけど)。

「終わらない悪夢」ロマン・ガリ(The Oldest Story Ever Told)★★★★☆。2008年の日本で読むと、アイデアばかりが目立ってしまうのだが、二十世紀のユダヤ人にとってはアイデア・ストーリーどころではなかったのかもしれない。逃げ出したグルックマンの最初のひとことにハッとします。

「皮コレクター」M・S・ウォデル(Man Skin)★★★★★ は、タイトルから連想されるようなサイコものかと思いきや、シリアルキラーをミステリー・ゾーン風に描いているのが面白かった。

「レンズの中の迷宮」ベイジル・コパー(Camera Obscura)★★★☆☆ は、強欲な金貸しがガラスの機械仕掛けに魅せられて……アイデアだけ聞くと、ああ、という感じの作品なのだが、前半の微妙な心理戦みたいなところが面白い。

「誕生パーティー」ジョン・バーク(Party Games)★★★☆☆。結末に触れる言い方になってしまうけれど、〈子どもの悪意〉みたいな話だと思っていたら〈頭のおかしい人の話〉だったというのが(意外ではあるんだけど)好みではありませんでした。不安に駆られる母親視点というのも意外性に一役買っているのだけれど。

許されざる者」セプチマス・デール(The Unforgiven)★★★☆☆ は耽美な感じの禁断の悲劇。青みがかったモノクロの映像が似合う。

人形使い」アドービ・ジェイムズ(Puppetmaster)★★☆☆☆ はお決まりの人形愛もの。

「蠅のいない日」ジョン・レノン(No Flies on Frank)★★★☆☆ はジョン・レノンのノンセンス掌篇。

「心臓移植」ロン・ホームズ(A Heart for a Heart)★★★★☆ は、三角関係の果てにみんな死ぬ話。マッドなロマンチストが燃えゆく火のなかで最期に見た夢みたいな、妙な美しさがあります。出来事のわりにスプラッタな感じじゃないから。ただ、これはこの作者がうまいというより、偶然のような気もします。

「美しい色」ウィリアム・サンソム(A Real Need)★★★★★ は、緑に囲まれた白黒の家に暮らす語り手が、色の拷問に耐えられなくなって……。新装版『異色作家短篇集』にも収録されてた作家。あれは火事で壁が倒れてくる話、だったのだけれど、この人は景色の動きを視覚的に描写するのがめちゃくちゃ上手い。

「緑の想い」ジョン・コリア(Green Thoughts)は『怪奇小説傑作集』でも『炎の中の絵』でも読んでいるので今回はパス。新訳だから、読んでみたらまた違うのかもしれないけど。

「冷たい手を重ねて」ジョン・D・キーフォーバー(Give Me Your Cold Hand)★★☆☆☆ は、死者に囚われてしまった人たちの話ということになるんだろうけど、あんまし上手くない。

「私の小さなぼうや」エイブラハム・リドリー(My Little Man)★★★☆☆ は、ぼうやを溺愛しているがために起きてしまった悲劇。オチがすべてのホラーといえましょう。

「うなる鞭」H・A・マンフッド(Crack O' Whips)★★★☆☆ は犬の調教師が見舞われるある出来事。何て嫌な話を書くんだ、この人は。作風はコッパードやポーイスだそうですが、エグ過ぎます。あまりにも強烈だけど、嫌な話過ぎて好きじゃない。

「入院患者」リチャード・デイヴィス(The Inmate)★★☆☆☆ はゴリラに恋する人妻の話。

「悪魔の舌への帰還」ウォルター・ウィンウォード(Return to Devil's Tongues)★★☆☆☆ は、忌まわしい伝説のある石に近づいて案の定な話。

「パッツの死」セプチマス・デール(Putz Dies)★★★☆☆ は、死刑囚と看守の確執。この人は「許されざる者」も収録されてますが、わりと文学的な文体の作家。染みが徐々に徐々に広がっていって、最後に至って一気に真っ赤に染まるようないやらしさがありました。

「暗闇に続く道」アドービ・ジェイムズ(The Road to Mictlantecutli)★★☆☆☆。「人形使い」に続いてこれまたお決まりの審判もの。

「死の人形」ヴィヴィアン・メイク(The Doll of Death)★★☆☆☆ は呪いの人形もの。

「私を愛して」M・S・ウォデル(Love Me, Love Me, Love Me)★★★☆☆ は、死霊(?)に取り憑かれた男の恋愛譚。著者も「皮コレクター」に続いて二篇収録。

「基地」リチャード・スタップリイ(The Shed)★★★☆☆ は、基地に幽閉され実験台にされた男の一人称小説。男は何者で何のための実験なのかというのは最後に明らかになる。シリアスタッチのわりにはすっとこどっこいなアイデアだと思う。
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