『綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー1』(講談社)★★★★☆

 何よりミステリ・ジョッキーという発想が面白い。もっとこういうアンソロジーってあってもいいなあ。

 それに、収録作にはずれがあっても、対談を楽しめるからお得感はあります。

 「技師の親指」の有栖川氏コメントはいろんなところで読んでいるから新味はないけれど、延原謙訳を読んだのは初めてだったので新鮮でした。邦訳ホームズ文体の定番だと思ってたのに、意外とイメージと違った。

 乱歩の「赤い部屋」を、見ようによってはトリックの宝庫という発想が面白い。

 番外編は竹本健治「恐怖」、江坂遊「開いた窓」「踊る細胞」、井上雅彦「残されていた文字」の四篇。

 ショート・ショートはやはり好みがわかれるところ。「残された文字」は短篇集で読んでいて以前から好きな作品だったけれど、ほかの三篇はイマイチでした。わたしには理が勝ちすぎているように感じられてしまう「恐怖」を、お二人は「考えオチ」「考え恐怖」と言っていて、なるほどなァと思いました。こういうのがこのミステリ・ジョッキー形式のよさですね。

 ジョン・ディクスン・カー「新透明人間」と泡坂妻夫「ヨギガンジーの予言」は、ミステリとマジックの関係について。続くミステリとパズルの関係についてともども、根元的で興味深い問題です。有栖川氏の方がこの問題には積極的で、綾辻氏が曖昧に濁す印象なのがもったいないところです。

 南條範夫「黒い九月の手」は怪作。クイーン「ガラスの丸天井付き時計の冒険」は初期作品ということなのだが、意外なほど既に自己言及的というか、この作品自体がミステリのパロディみたいなところが面白い。
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