『宇宙飛行士ピルクス物語(上)』スタニスワフ・レム/深見弾訳(ハヤカワSF文庫)★★★★☆

 『OPOWIEŚCI O PILOCIE PIRXIE』Stanisław Lem,1971年。

 端正なというか正統的なというか、派手なところはないけれど読みごたえのあるハードSF。ニヤニヤしたり手に汗握ったりと、物語的にも面白い。

「テスト」

 宇宙飛行士候補生ピルクスの、初めての訓練飛行の模様が描かれます。このころのピルクスくんはけっこう駄目駄目くんなので、そのあたりのぼけっぷりを読むだけでも面白い。当然のようにトラブル続出なのですが、ハエが出てくるあたりがサービス精神というよりほとんど悪ノリで愉しい。

「パトロール

 パトロール船のパイロット謎の連続失踪事件!――あり得ない謎が次々に襲いかかり、最後には「論理的」に解かれる、ハードSF=謎解きサスペンスの傑作。冷静になって思うならば、謎の種類から言ってそれ系統の真相しかないだろうとはわかるんだけど、まず「失踪」というのが頭にあるから真相には思いも寄らずに引き込まれてしまった。ピルクスの「凄腕」に笑ってしまった(^^)。

「〈アルバトロス〉号」

 アルバトロス号で事故が起こった。ピルクスが乗り合わせていたタイタン号も急ぎ救助に向かうが……。これまでとは打って変わって(?)シリアス一辺倒の災害対策ドラマ。ほとんど何もできずに通信をやりとりしているだけなのにこの迫力。プロフェッショナルが見た、プロフェッショナルたちの仕事ぶりが感動を呼びます。

「テルミヌス」

 ピルクスが手に入れた中古船は、かつて事故で乗組員が全滅した宇宙船だった。船内には唯一の「生き残り」であるロボット・テルミヌスもいた……。基本的に本書収録作の多くは、何かが起こってしまったときにどう対処するかに知恵を絞る作品であり、本篇もそれに違いはありません。ただし結末が結末なだけに「〈アルバトロス〉号」のような、宇宙の厳しさを突きつけられる人間ドラマの印象が強い。

「条件反射」

 月面で調査員が二人、謎の死を遂げた。事故なのか、狂気なのか、原因はまったくわからなかった。忍耐力テストで好成績を収めたピルクスが、事故調査に赴くことに。機械的な事故は必ず起こりえるし、人的ミスも必ず起こりえます。機械のミスはもとより人間の判断のもろさを描いた作品です。

「狩り」

 月面発掘用ロボットが暴走、目につくものすべてを破壊し始めた。居合わせたピルクスは、ロボット退治を買って出るが……。メインとなるのは題名通り「狩り」のスリルです。限られた武器でいかにしてロボット退治を成し遂げるか。ガン・バトルを堪能したあと、最後の最後に書き添えられる人間味がニクイ。

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