『The Memory of Eva Ryker』Donald A. Stanwood,1978年。
文春文庫で出ていたのの再刊。意外な感じがする。有栖川有栖が褒めてるみたいだし、よほどミステリ度が強いのだろうと期待。
読んでみたところでは、う〜ん……映画化向けかなあ……というタイプの物語でした。解説にも書かれているように、ハードボイルドありサスペンスあり本格ミステリありパニック小説ありの、贅沢なエンターテインメントなので、やはり文章よりも映像に映えるように思えます。
それはさておき。やっぱりタイタニックをからめたというのが一番のポイントだと思います。発表が三十年前というのを鑑みても、今やハードボイルドやサスペンスとしてはいいとこ並でしょう。ところが、たいていの小説では黒幕とか大仕掛けに架空の存在を持ってくるところを、本書ではタイタニックという実在の船・事件を持ってくることで、スケール感と「やられた」感がぐんとアップしてます。
(ここからややネタバレかな?)
特に本格ミステリとして、犯罪計画が不測の事態によって変更を余儀なくされることで探偵や読者の目にはまったくわけのわからない謎が現れてしまう――というのは一つのパターンなのですが、その不測の事態にタイタニックを利用した点が見事というほかありません。いやあ、大きすぎて見えませんでした。
発端自体が既に……という構成も見事です。
何度も何度も船の見取り図を提示したり、置換式暗号を解く場面では文字を入れ換えて試行錯誤するたびに入れ換えた文字ごとに暗号そのものを繰り返し提示したり(だから何ページも???マークとアルファベットだらけだったりする(^^;)、っていうところも本格心をくすぐりますし。
ハードボイルドやサスペンスとしては並、と書いてしまったけれど、忘れてはならないのが、実はアクションに関してはブルース・ウィリスやジャッキー・チェンもまっつぁおなところです(^^;。不意打ちに拳銃で撃たれるわ、窓からロープ伝いに逃げ出すわ、ドーベルマンを素手で殺すわ(石を持ってはいるけど)、爆破されるわ、生きているのが不思議なくらい。
史上最大の海難事故といわれる〈タイタニック〉の沈没から半世紀、米経済界の黒幕ウィリアム・ライカーが深海に眠る遺留品の捜索に乗り出した。タイアップ特集を組む雑誌に執筆を依頼されたノーマン・ホールは、数々のトラブルに見舞われながらも取材を続け、奇縁に導かれるように、沈没船からの生還者エヴァの封印された記憶、ひいては闇に葬られていた犯罪を白日のもとに……。(カバー裏あらすじより)
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