『マザーズ・タワー』吉田親司(早川書房Jコレクション)★★★☆☆

 『S-Fマガジン』で序章を読んだかぎりでは、ヒロインのために寄り集まった男たちが奮闘する冒険ものだと思ったのだけれど、メインは別のところにありました。

 カバーあらすじにも書かれているからバラしてしまうけれど、この小説の肝は「軌道エレベーターを建設する」という点にあります。そのために肉付けしたり外堀を埋めたり理論武装したりしてはいますが、面白さの根っこは軌道エレベーター建設――ジュール・ヴェルヌ月世界へ行く』や『気球に乗って五週間』の面白さと同じ、不可能なことをいかにして可能ならしめるか、という面白さなのです。

 とはいえ野尻抱介のようにハードSF度が無茶苦茶に高いわけではなく、機械系が苦手な人でも安心して楽しめます。

 登場人物の過去や現在がちんたら語られているところから一転して軌道エレベーターの話になるところでは興奮しました。

 さてそんな軌道エレベーター建設の動機付けに、恋心だとか人類の未来だとかが採用されているわけですが、そんなのはどうでもいいというか、むしろこの作品の場合はマイナスでした。

 というのも、ヒロイン役の女性に魅力が皆無!なのです。作品の都合上「聖母」キャラが必要だったのか、不特定多数の人間から好意を受ける以上は個性のない無味乾燥な女性である必要があったのか、著者は本気でこういう人が魅力的だと思っているのかわかりませんが、この人を中心に人が回るのは厳しい。

 しかもヒロインが宗教系の人なこともあって、作品全般が抹香臭いうえに説教臭い。終盤のご都合主義な山場の盛り合わせと併せて、そこらあたりがあまりにも安っぽくて安易なのがちょと残念でした。

 西暦二〇三八年、スリランカ―インド間を結ぶ巨橋を拠点とする《マザーズ教団》は、難病の子どもたちの末期医療に従事していた。教団代表の葵飛巫女はインド州軍の襲撃を予測し、巨橋を崩壊させて教団ごと避難する決意をする。攻撃開始の日、それぞれの理由で巨橋に居合わせた4人の男たちは、飛巫女の素顔と、人類の未来を左右する真の目的を知った。医学、財産、電脳、怪力――それぞれの要素に恵まれた男たちは、彼女のため命と才覚のすべてを賭け、太陽系最大の建造物・軌道エレベータの建造に挑む! 架空戦記の俊英、初の本格SF。(カバー裏あらすじより)
 --------------------

  『マザーズ・タワー』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ