『夜明け前』中間淳生(集英社りぼんマスコットコミックス・クッキー)★★★★★

 bk1の新着情報で見た書影がかっこよかったので思わず購入。

 でも買っちゃってから、「性同一性障害を正面から描いた」という惹句を読んで、流行りものに乗っかった&悲劇ネタを材料にしただけの作品っぽい不安を覚える。

 実際に読んでみたらそんなことはありませんでした。

 まずは普通の恋愛ものっぽいスタート。友だちの好きな人を好きになっちゃって――というガチガチ王道です。ひとつにはこういうところが好印象。作品を気負いが覆ってないんです。そりゃ彼ら/彼女らだって、フツーに恋愛するよなあ……てのも考えて見れば当たり前のことなんですけど、どうしても特別視してしまってましたからね。。。

 性同一性障害について、へえと思った点がもう一つ。「生物学的な性別と心が一致していない障害」なのだと、わたしと同じく思っている(いた)方も多いのではないでしょうか。それももちろん間違いではないんですけど、これって外側の人間が外側からした説明に過ぎないんだと虚を衝かれました。で、そのことが漫画ならではの手法と結びつけられて表現されていたのには、古典的な手法ながらかなりびっくりさせられました。しかもこの場合、その手法が必然なんです。

 無理にシリアスな言葉やストーリーを紡がなくても、表現できるもんはできるんです。

 真面目な内容ですがわりと雰囲気は明るい。

 一つには、本篇の藤村や、あるいは併録「まだ、知らない」の志麻子や相馬のような、ちょっと風変わりなキャラクターの存在が大きいのでしょう。現実にはこんな人は多分ほとんどいないわけで、荒技といえば荒技なんでしょうけど、だからこそたった三話でいろんなごちゃごちゃもまとまって、しかも暗くない!という、難しいことが実現されてるんだと思います。

 一時期流行ったトラウマみたいなものを安易に援用しないのもいいです。過去の忌まわしい記憶というものは(誰にでも?)あるわけですが、一時期は「過去の記憶=未来の悲劇」みたいな図式ばかりでうんざりでしたし。まあこれも藤村のキャラクターのおかげなんですけど(^^。

 収録作三作はどれも前向きなものばかりなので、どれも読んで心がなごみます。
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