『王妃の首飾り(上)』アレクサンドル・デュマ/大久保和郎訳(創元推理文庫)★★★★★

 『Le collier de la reine』Alexandre DUMAS,1849年。

 第一部『ジョゼフ・バルサモ』を訳している関係上、第二部である本書も久しぶりに読み返してみました。

 序章のはったりかましたようなかっこよさは記憶に残っていたのですが、『ジョゼフ・バルサモ』とほとんどおんなじなのにはびっくりしました。でもそういえば第一部ではカリオストロ伯爵ではなく、ジョゼフ・バルサモやフェニックス伯と名乗っていたっけな?と思いますし。断じてタヴェルネ男爵が惚けてしまったわけではありません。

 第一部ではルイ十五世とデュ・バリー夫人が中心となっていましたが、その十四年後の本書ではルイ十六世とマリ=アントワネットの時代に変わり、冒頭からマリ=アントワネットも登場します。

 アンドレ、フィリップ、タヴェルネ男爵、ニコルといったお馴染みの面々も再登場。男爵は相変わらずお家再興に余念がなく、フィリップをけしかけてます(^^;。そうかあ、第一部ではフィリップはまだ十八歳だったのか。アメリカから帰ってきて久々に初恋の人に再会したといっても、三十二歳でこのうぶっぷりはないだろう(^^;とは思うものの、やはりこれだけの大長篇だと登場人物にも愛着がわいてくるもので、みんな変わってないなあ……と妙に懐かしく嬉しくなっちゃったりもしました。

 昔読んだときにはフランス史も知らなかったのでピンと来なかったのだけれど、読み返してみるとロアン枢機卿が王妃とあんまり仲が良くないので覚えをめでたくしたいということもちゃんと説明されていて、その200ページくらいあとになって、ニコルが「そっくり」なのが活かされてました。ニコルが外国に行っていたという設定も、些細なことだけどうまいです。そりゃ十年パリに暮らしていて気づかれないわけないものね。

 馬車がアイスバーンを走ることで人身事故が多発したり、氷が解けたら解けたで水浸しになって道路を泳いで渡ったり、薪不足対策に私財を投じた王妃を讃えるために市民が氷のオベリスクを建てたりと、当時の様子がしのばれて興味深い。

 それから、ラ・モット伯爵夫人が枢機卿からもらった家で初めて一夜を過ごす場面。一人きりで満喫したいって気持、よくわかるなあ。

 それからニコル、ボージール、フィリップら登場キャラの個人的な事情にはらはらしていたら、それが歴史のピースにぴたりとはまってしまうところはほんとうに上手いです。

 マリ=アントワネットがアルトワ伯のことを「弟!」と呼びかけていて、たぶん原語は「mon frère」か何かだと思うんだけど、こういうのって翻訳するの難しいよなあ。

 1784年の初春、リシュリウ元帥、デュバリー夫人、スウェーデン国王、タヴェルネ男爵らが集う晩餐の席上、カリオストロ伯爵が彼らの恐ろしい未来を予言していた……。同じころ、王妃マリ=アントワネットと次女アンドレは、アンリ四世の末裔を名乗る女と対面していた。財政の逼迫、アメリカ独立戦争……革命の予兆はじわじわと迫っていた。そんななか、フランス国王ルイ十六世は、王妃のためにダイヤモンドの首飾りを贈ろうとしたのだが……。
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