『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信(創元推理文庫)★★★★☆

 買ってはいたのにどこかに埋もれていたのでこれまで読めずにいたのですが、『秋期限定』が発売されるというのでどうにか掘り出してようやく読みました。

 一般的な定義はさておいて、わたしが〈日常の謎〉ものと聞いてイメージするのは、〈殺人の起こらないミステリ〉ではなく、“謎のシチュエーションが日常的かどうか”にあります。(※作品の善し悪しとは無関係)

 その点、本書収録「はらふくるるわざ」「狐狼の心」の二篇は、「ロッカーに置いてあった壜が落ちて割れた」「盗まれた自転車が乗り捨てられてあった」といったほんとうにどこにでもある出来事に、探偵役が謎自体を見出すことで謎が生まれるという、わたし好みの作品でした。

 しかも、一見謎などないところから“謎を見出す”ことは“謎を解き明かす”ことにもつながるわけですから、小市民ならざる推理癖のある人間が小市民を目指すという本書の設定にもかかわってくるし。

 三話目の「おいしいココアの作り方」は、謎の発見とプレゼンをしたのが友人の姉というところが、惜しい。そのせいでミステリというより突然のクイズみたいになってしまっていますが、他人の家である以上はその家の人間が必要でしょうし、後々の話のためにお姉ちゃんを出しておく必要もあったのでしょう。でも真相はいちばん面白かったです。日常的かつ盲点をついた真相で。

 一話目「羊の着ぐるみ」(韜晦趣味なタイトルです(^^;)と二話目「For your eyes only」の二篇は、初めということもあってか顔見せ的に(?)比較的ふつうにミステリの手順を踏んだ作品です。特に「For your eyes only」の手がかりのばらまき方は丁寧です。「羊の着ぐるみ」は紛失したポシェットを探す話、「For your eyes only」は美術部の先輩が残した下手くそな絵の真相を考える話、です。

 米澤穂信がいいな、と最初に思ったのは『ミステリーズ』で読んだ「シャルロットだけはぼくのもの」だったのですが、あれも確か、シチュエーションという点では四話目五話目に近い作品だったような気がするので(よく覚えていない。これから『夏期限定』を読む)『夏期』『秋期』も楽しみです。

 小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか? 新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。(カバー裏あらすじより)

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