『金剛石のレンズ』フィッツ=ジェイムズ・オブライエン/大瀧啓裕訳(創元推理文庫)

 Fitz-James O'Brien。19世紀の人だということにびっくり。

「金剛石のレンズ」(The Diamond Lens,1858)
 ――わたしは子供のころから顕微鏡に興味があった。だが粗末な顕微鏡で見る世界には限界があった。わたしはいつしか、完璧なレンズを夢見るようになっていた。

 科学的興味だったはずなのになぜか一足飛びに妄想にジャンプするギャップに眩暈がします。即物的な見方をすれば、徐々に培われていた強迫観念が、人を殺したことがきっかけで――ということになるのでしょうが。「天上の音楽」とか「絶対の美」とかを求めるオカルト擬似科学風です。ほかの作品と比べても瑞々しい輝きに満ちています。
 

「あれは何だったのか」(What Was It? A Mystery,1859)
 ――「恐怖の最大の要素は何だと思うね」そんな話をしたあと、わたしは部屋に引き上げた。じっと横たわっていると、恐ろしいことが起こった。何かが天井からわたしの胸に落ちてきたような気がしたかと思うと……。

 これはわりとふつうのM・R・ジェイムズっぽい怪奇小説。〈透明人間〉なんて名前をつけてカテゴライズした途端に怖くなんかなくなってしまいますが、これはそれがまだ何物とも名づけ得ない〈何か〉だったころの作品です。
 

「墓を愛した少年」(The Child That Loved a Grave,1861)
 ――少年は両親のいさかいがこわくてたまらず、近くの古い墓地によく足を運ぶようになった。やがて小さな墓を愛する気持ちが高じて、墓を飾るようになった。

 〈魔法の本棚〉シリーズで出ていたコッパードやミドルトンを思わせる喪失感ただよう作品でした。
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