「My Favorite SF(第42回)」平山瑞穂
スタージョン『人間以上』。
5回目のスプロール・フィクション特集。前回よりはだいぶ面白かった。解説によると「スリップ・ストリーム」という言葉は、現在では「電子書籍などニューメディアを用いる新しいポピュラー・カルチャー」を指すようになっているそうです。
「名高きものども」クリストファー・ロウ/小川隆訳(Men of Renown,Christopher Rowe,2006)★★★★☆
――ティモンは穴からシャベルをほうり出した。思い描いていた棺の音はなく、シャベルの刃が兄の腿に食いこむ手応えがしただけだった。兄を見おろした。「おい」と声をかけた。「起きろ」
聖書に出て来る「巨人《ネフィリム》」を主役にした、青春ノヴェル風の作品。アニキたちにゃあ勝てねェけど、オレだっててっぺん取りたいんだとか、そういうのです。巨人が人類を支配するため火星を目指すというストーリーは、いちばんSFっぽい作品でした。
「蝶の国の女王」ホリー・フィリップス/黒沢由美訳(Queen of the Butterfly Kingdom,Holly Philips,2007)★★★★☆
――大使館の女性から今朝も電話があった。交渉は続行中です。新たな変化はありません。変化。その言葉の選び方に感心した。そう、負傷だってたしかに変化だ。死亡となれば、まさに変化だ。今日のニュースに死者の報道はない、ということだ。
彼氏が人質に囚われているらしい状況のなかで、「書く」ということが一種の精神療法のような役割を果たしているようにも思うのですが、それがそのまま現在進行形で小説として目の前に現れているのが胸を打ちます。どこか九・一一の作品にも通ずるような喪失感。
「特集解説」小川隆
「SF界における世代を巡る論議」小川隆編訳
SF作家のエリザベス・ベアが「自分は上の世代の作品をあんまり読んでないし、上の世代の作家も自分たち世代の作品を読んでないのでは」とブログに書いたことから起こった論争を巡って、作家や編集者にアンケートをとったもの。
「都市に空いた穴」リチャード・ボウズ/小川隆訳(There's a Hole in the City,Richard Bowes,2005)★★★★☆
――九月十二日水曜日。高層ビルが倒壊した翌日、マグズがやってきた。「ゆうべのことを考えていたの」彼女はゆうべあった出来事を話してくれた。「玄関のベルがなって、ギョッとしたわ。踊り場のところに人が立っているのよ。大昔の服を着てた。顔は血まみれで、高いところから落ちたみたい」
九・一一テロ後を描いた作品。日常のなかに即物的に置かれる死人の描かれ方が、九・一一というより、スプロール・フィクション独特のものであるように思います。死に対するこの感覚とか距離の取り方はわたしにはないものなので、すごく興味があります。あるはずのものが不意にこの世からなくなってしまったときって案外こんなものなのかもしれません。
「ローズ・エッグ」ジェイ・レイク/小川隆訳(The Rose Egg,Jay Lake,2004)★★★☆☆
――新しい“エッグ”を開発したおれたち。ずっとうまく金をせしめていけるはずだった――(袖コピーより)
これもSF小道具を用いたチンピラ小説。ただ、(絵とはいえ)「夕焼けを作り出す」という発想は面白かったのに、その後「立体物を作り出す」のではただのカプセル怪獣とかと変わりがなくて面白味が減じてしまいました。ベニーが頭が弱いという設定も含めて、どこか寓話的なところもある作品でした。
「アンブロークン・アロー(6)『戦闘妖精・雪風 第三部』」神林長平
「SFまで100000光年 69 一属性・多属性」水玉螢之丞
「MEDIA SHOWCASE」添野知生・高野史緒・他
高野史緒がロシア・プロパガンダ映画をレポート。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
◆『ミステリマガジン』でも紹介されていた、ギリシア神話の神々が現代のロンドンで暮らす『お行儀の悪い神々』が紹介されてました。
「地球移動作戦 第12回」山本弘
「おまちかね超人間のつくりかた」椎名誠《復活!椎名誠のニュートラル・コーナー14》
今回は驚きの事実が目白押し! エスキモーの毛皮はそうやって着るのか! モンゴルの遊牧民は視力がいいし夜目もきくので無灯火で夜中にバイクを走らせるそうです。フィリピンの燕の巣獲り人は、サンダル一丁で崖を上り下りするとか……!
「星の香り」菅浩江
「おまかせ!レスキュー Vol.132」横山えいじ
「(They Call Me)TREKDADDY(Log.26)」丸屋九兵衛
「サはサイエンスのサ 171(まったくあたらしい粒子が見つかった)」鹿野司
「センス・オブ・リアリティ」
◆「内宇宙への道はどっちだ」金子隆一/「新聞が言ってたから……」香山リカ
「READER'S STORY」山田武博「知識の塔」
「『ネル』遠藤徹インタビュウ」
「MAGAZINE REVIEW」〈F&SF〉誌《2008.10/11〜2009.2》香月祥宏
「デッド・フューチャーRemix」(第81回)永瀬唯【第14章 ハイ・フロンティア】
「第4回日本SF評論賞 最終選考会再録/優秀賞「アシモフの二つの顔」石和義之」
選考委員がキャラ立ちしていて読んでて楽しい選考会でした。一言毒舌ネタの高千穂氏は今回はかなり控えめ。というかほとんど発言してません(^_^;。ひかわ氏のおばちゃん芸がナイスキャラです。荒巻氏はとても丁寧で、まるで選評というより添削しているようです。ただ一人プロ評論家の小谷氏は長所短所どちらにも目配りの利いた発言を。塩澤元編集長は司会も兼ねているのかな。受賞作については、該当アシモフ作品を読んだことのないのでいまいちわかりませんでした。
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