『ポーリーヌ』アレクサンドル・デュマ/小川節子訳(近代文芸社)★★★★☆

 『Pauline』Alexandre DUMAS,1838年

 語り手が友人から聞かされる話という枠物語形式、しかもそのきっかけは友人と謎の美女を語り手が目撃したことに始まり、その内容は囚われの美女を救う話、殺人紳士の裏の顔、病身(毒だけど)の恋人との悲恋、植民地での狩り……およそ『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』のデュマからは想像もつかない、19世紀ロマン派バリバリの作品でした。似たような手触りを探せば、スティーヴンスンに近いでしょうか。

 枠物語という形式に加えて、ですます体の訳文も、豪快奔放なデュマとは一味も二味も違うイメージをもたらすことに一役買っています。秘密の通路とか決闘とか男気とか、そういうところはデュマ以外のなにものでもなんですけどね。特に、誘拐した女性や決闘相手に悪役が見せる妙な騎士道精神に男気があふれていました。

 あるときアルフレッド・ド・ネルヴァルを見かけた。美しいご婦人と一緒だったが、急ぐように立ち去ってしまった。どうした偶然からか、それからも何度か二人を見かけることがあった。ようやく捕まえたとき、アルフレッドの口から驚くべき言葉を聞かされた。ポーリーヌ・ド・ムーリヤン! そうだ、どうして気づかなかったのだろう。M夫人たちとサロンで一緒だった。

 「これにはわけがあるんです――」アルフレッドは話し始めた。――絵を描こうと海岸に向かったのですが、嵐に遭ってしまいました。ふらふらになって廃墟となった修道院に倒れ込んでいると、物音が聞こえるような気がしました。そのあたりで殺人と強盗があったと聞いていたので、過敏になっているのだろうと思ったのですが、しばらくすると月が現れて、男の姿が見えました。朝になって近所にたずねてみると、修道院の隣にはポーリーヌの夫であるオラース・ド・ブーズヴァル伯爵が住んでいるということでした。わたしはさっそく会いに行ったのですが、ポーリーヌの亡骸が運び出されるところでした。なのにめくられた布の下にあったのは、ポーリーヌの顔ではありませんでした!
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