『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』1956年10月号No.004

 積ん読も終わったのでのんびり読みたい本でも読むことにする。

「白の研究」ニコラス・ブレイク峯岸久(A Study in White,Nicholas Blake,1949)
 ――脱線して降雪に閉じ込められた列車。奇しくも先月、その場所この列車で列車強盗があったのだ。乗客たちは時間をもてあまし会話に興じるが、やがて一人が雪のなか死体となって発見される……。

 問題編と解答編に分かれた犯人当て小説。解答編が小説仕立てにすらなっていません。まるで試験問題と解答解説。わたし自身は推理小説を推理して読むことはあまりありませんし、この作品が犯人当てだとも知らずに読んだのですが、矛盾点を丁寧に拾っていけば自然に不可能点が明らかになると思われるので、推理の猛者ならけっこうあっさり真相に到達できそうかな、と思います。腕試しにはもってこい(?)。
 

「天外消失」クレイトン・ロースン/阿部主計訳(Off the Face of the Earth,Crayton Rawson,1947)

 先ごろポケミスでも復刊されました。編集後記で「マーリニー」という名の発音について訳者の見解が紹介されていて、説得力があります。
 

「解剖学教程」マイクル・イネス/野村一郎訳(Lesson In Anatomy,Michael Innes,1946)
 ――フィンレイ教授の最終講義は、毎年きまって悪趣味な冗談が行われていた。教室の明かりが消えたときも、いつもの悪ふざけかと思われた。ふたたび明かりがついたとき、解剖死体の代わりに教授自身の身体が横たわっていた。すっかり息絶えて。

 アプルビイもの短篇第一作。事件を再現検証した結果、真相に気づくきっかけというのが、見たまんま過ぎて、頭のなかで映像化してみると妙に可笑しい。魅力的な謎ではあるけれど、これはひとえに犯人氏の思い切りのよさと豪腕によるところが大きい。しかしおそらくこれは瑕というよりギャグでしょう。

 本作のタイトルにからんで、クイーンがコラムでウールリッチの「爪」の改題について記しています。ウールリッチ自身による「三番街のレストラン」「本日の特別料理」、初出の編集者は「お客さんはいつも正しい」だったそうです。クイーンが(?)つけた「爪」というタイトルによって、クイーンがこの作品のどこを評価しているかがよくわかります。
 

「出口はわかっている」ナイオ・マーシュ/村崎敏郎訳(I Can Find My Way Out,Ngaio Marsh,1946)
 ――アリーン警部の自宅には、始終間違い電話がかかってくる。今も「劇場に衣装を届けてくれ」という内容だった。たまたま脚本家と知り合いだったマイクが届けに行くことに。だが関係者以外は入れないと言われ、マイクは衣装で変装し、アリーン警部の名刺を見せて劇場内に入り込んだ。だが事件が起こった。俳優の一人がガス中毒で死んだのだ。

 ユーモアものっぽいタッチと機械トリックという組み合わせに、古き良きミステリの香りがします。事件と謎と捜査と解決よりも、現場の人間関係を描く方に興味の重きが置かれているようなところがイギリス(イギリス連邦ですが)らしいような気もします。とはいえセイヤーズなんかはあまりにもあんまりな機械トリック単体を本気で重視していたような節もあるし、何だかピンと来ません。
 

「あなたのお金を倍に」エラリイ・クイーン/青田勝訳(Double Your Money,Ellery Queen,1951)

「決断の時」スタンリイ・エリン/中田耕治(The Moment of Decision,Stanley Ellin,1955)

「骨折り損のくたびれもうけ」ジョン・ロス・マクドナルド/砧一郎訳(Wild Goose Chase,John Ross Macdonald,1954) ――その女は名乗りもせず、ケイヴという殺人容疑者に裁判で勝ち目があるのか確かめて来てほしいと依頼した。財産目当てに妻を殺した容疑だった。弁護人は知り合いのハーヴェイだった。ハーヴェイはその女を見て驚いた顔をした。

 リュウ・アーチャーもの。ものの見事にハードボイルドのエッセンスを詰め込んだような作品です。お金目当てというドライな動機に、乾いた嫉妬、離婚、裏切り、意外な真相、会ったばかりの関係者の死、騎士な探偵、なにもできない探偵、引っかき回しただけの探偵、そういうピースがミステリ的に隙間なくかちりとはまっている作品でした。
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 『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』1956年10月号No.004


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