『ミステリマガジン』2009年07月号No.641【特集 フランス・クラシーク・ミステール考】

 久々のフランス・ミステリ特集。でも「ミステール考」とはいいつつ、考察なんて一つもありません。それどころか特集とは別に、アメリ好き三人の鼎談が(^_^;。「クラシーク」というだけあって、意外とトリッキーな作品が多い印象でした。
 

「迷宮解体新書13 結城充考

「私の本棚19 倉阪鬼一郎
 「俳句ならスフィンクスのように謎を提示して終われる」「短歌の長さがあると、謎を提示しても解けてしまうのが風通しが悪いように感じ」たので「ずいぶん前に短歌から俳句に転向しました」とのこと。例外的に「謎の消えない短歌」として、『ネムキ』でも紹介されていた笹井宏之歌集が挙げられていました。そういう観点は新鮮でした。今度そういう読み方をしてみようかな。わたしなんかは、短歌のその始まりから終わりまで一個の世界が凝縮されているようなところが好きなのですが。
 

「美術館の女」ピエール・ヴェリ/歌田純子訳(La dame des musées,Pierre Véry,1939)★★★☆☆
 ――ルピック弁護士は、孤独な銀行員の死に疑問を抱く。(袖惹句より)

 なぜかチェスタトンに捧げられています。「なぜ盗んだ紙幣を燃やしたのか」ではなく……という発想の逆転こそチェスタトン風と言えないこともないですが。事実の提示の仕方が独特で、かなり読みづらい文章でした。
 

「黒天使」ジャン・レイ/宮澤紀子訳(L'Ange Noir,Jean Ray,1921)★★★☆☆
 ――物置部屋で泣く子どもの前に現われたのは……(袖惹句より)

 生徒を折檻するのが趣味で、生徒の父親にぶっとばされたせいで歯抜けになったサディストの院長が不気味です。未知庵の漫画に出てきた院長(?)が思い浮かびました。
 

「エレベーターの中の死体」S・A・ステーマン/美濃部美恵子訳(Le Mort dans L'Ascenseur,S. A. Steeman,1930)★★★☆☆
 ――ウェンズ刑事は死体が動かしたエレベーターの謎に挑む。(袖惹句より)

 単純な事実を複雑怪奇に考えることで謎が発生するという、良くも悪くも謎解きミステリです。伏線の張り方が最高にへたっぴいなのがかえって微笑ましかったです。
 

ジョルジュ・シムノン――小説家と愛娘の異常な愛長島良三
 シムノン作品も数多く翻訳している翻訳家による、シムノン評伝。
 

「アリバイ」トリスタン・ベルナール/モルグかおる訳(L'Alibi,Tristan Bernard,1905)★★★★☆
 ――その手紙は裁判のやり直しを切々と訴えていた。(袖惹句より)

 訳者名が気になります。誰かのペンネームでしょうか。『恋人たちと泥棒たち』収録作の新訳とのこと。究極の選択、皮肉な結末――かと思いきや、そんなものじゃおさまらないブラックさに脱帽です。
 

「カミのふたつのコント」カミ/伊藤直子&高野優訳/古川タク・イラスト(Le Désenglandé de la Forêt Vierge/Une Chasse aux Tigres,Cami)★★★★★
 ――探検家は玉の奪還に、男はタンスを使った虎狩りに。爆笑の戯曲二篇。(袖惹句より)

 「処女林の玉なし男」「虎狩り」の二篇掲載。特に「虎狩り」は一行目から大笑いしました。古川タクのイラストも作品にぴったりでした。
 

「座談会 アメリカは僕らのおもちゃ箱」小鷹信光×東利夫×向井万起男
 

「プロメテウス・マジック(前篇)」福田和代

『犬なら普通のこと』(第2回)矢作俊彦司城志朗
 

「独楽日記(第19回) 「グラン・トリノ」またはマスターズ・ナルシスト・グランプリ王座決定戦」佐藤亜紀
 これも前回同様、過剰な(?)楽しがり方です。佐藤氏はイーストウッドナルシシズムに辟易しません。むしろ「老人の鑑だ」って。
 

「誰が少年探偵団を殺そうと。」11 千野帽子「ジャンルの現象学。」
 「ジャンルという厄介なもの」についてひととおりの説明があったあと、前回の続きで米澤穂信と中俣発言について。
 

「沈黙の時代の作家(第5回)」サラ・パレツキー山本やよい

「Dr.向井のアメリカ解剖室(7)」

「日本映画のミステリライターズ」(第35回「大林宣彦(I)と『なごり雪』)石上三登志

「お茶の間TV劇場(11)世にも不思議な物語」千葉豹一郎

「ヴィンテージ作家の軌跡(75)」直井明

「紙の砦の木鐸たちの系譜(11)」井家上隆幸

「旅人本の虫レベ(19)」レベッカ・スーター

「夢幻紳士 回帰篇(第十一話)花火」高橋葉介

「郭公の盤(9)」牧野修田中啓文

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第19回 ウィッチャー警部の推理)松下祥子

「僕は長い昼と長い夜を過ごす(10)」小路幸也

「仁賀克雄のできるまで(3)ミステリ・クラブ活動開始」仁賀克雄

「夜の放浪者たち 第55回 小栗虫太郎黒死館殺人事件』(前篇)」野崎六助
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