『ミステリマガジン』2009年08月号No.642【特集 幻想と怪奇 ポー生誕200周年】

 生誕200年に合わせたポー特集ですが、巽孝之の評論(というか評論の紹介)と、森英俊のオマージュ作品紹介コラムのほかは、あまりぱっとしません。収録作も、編集部が発掘して来たとかではなく、向こうの200周年記念アンソロジー一冊から拾っただけという芸のなさ。ポー自体は知らんぷりしてオマージュだけで固めるという奇のてらい方は面白いものの、新訳でも掲載してくれた方がよかったのに。。。
 

「迷宮解体新書20 樋口祐介」

「私の本棚20 高野優」
 『八十日間世界一周』や「クリク・ロボット」の翻訳者の方です。「クリク・ロボット」の続編翻訳中とのことなので非常に楽しみです。
 

「ポーとジョーとぼく」ドン・ウィンズロウ東江一紀(Poe, Joe and I,Don Winslow,2009)
 ――「アッシャー家の崩壊」を読まないぼくに、ジョー先生は……

「春の月見」S・J・ローザン/直良和美訳(Seeking the Moon,S. J. Rozan,2009)
 ――偽の仏像を掴まされた友人のため、美術品調査専門探偵が奔走する。

「ネヴァーモア」トマス・H・クック/高山真由美訳(Nevermore,Thomas H. Cook,2009)
 ――疎遠だった父にポーを読んで聞かせるうち、明らかになった真実とは。

 特集作品のなかでは、強いて言えばニックやドードマンダーといったユーモア怪盗ものみたいな趣の、ローザン作品が面白かったです。
 

「エッセイ」スティーヴン・キングローレンス・ブロック辻村深月三津田信三日暮雅通巽孝之「ポーの謎、デュパンの謎」、森英俊「ポーに魅せられたミステリ作家たち」
 巽氏のコラムは、主に200周年をめぐる出版事情と、「マリー・ロジェの謎」新事実&再評価について。本誌掲載のキングやブロックのエッセイは、恐らくこのコラムで紹介されているアンソロジーの序文なのだと思います。森氏のエッセイは、山中峯太郎、マイクル・ハリスン、笠井潔ほかのオマージュ作品紹介。
 

『犬なら普通のこと』(第3回)矢作俊彦司城志朗

「沈黙の時代の作家(最終回)」サラ・パレツキー山本やよい
 

書評など
◆洋書紹介欄では、ロシア作品『Игра во мнения(マインド・ゲーム/Igra vo mnenija)』Полина Дашкова(ポリーナ・ダシュコワ)が気になりました。「サスペンスとしての醍醐味には欠ける」「本格ミステリには御法度である「偶然」をフル活用」とはいえ、英米以外の作品はまずは読んでみたくなりますから。何より本のデザインがかっこよすぎます! 縦長の造本で、サンタ(?)か誰かがコピーされて並んでいるなかにアリスっぽい少女が一人混じっているデザイン。ほしいなあ。

◆今月は『新・幻想と怪奇』、『ゴースト・ストーリー傑作選』などアンソロジーのほか、東欧の想像力シリーズ新刊『帝都最後の恋』ミロラド・パヴィッチ、早川の想像力の文学から二作『ネル』『全世界のデボラ』。みすずの『ゴースト・ストーリー傑作選』は専門書扱いなのでしょう、こうしてみると小説って安いんですねえ。高いというイメージの国書の本だってだいたい二千円代ですから。

村上春樹1Q84はミステリマガジンだけでなくSFマガジンでも紹介されていました。とはいえ大森欄での紹介なのでSF枠ですか。

『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』はシナリオの書き方指南なのですが、「物語を構想するとはどういうことか」「小説を書こうと思わない人が読んでも、フィクションの味わい方を深めることに役立つ」とのこと。エドガー・アラン・ポーの世紀』『ジュール・ヴェルヌの世紀』は、どっちも値段が高いんですよね。。。
 

「独楽日記(第20回) 「老醜の有効利用――或いは「ヴィーナス」のピーター・オトゥールについて」佐藤亜紀

「誰が少年探偵団を殺そうと。」12 千野帽子「世界は、簡単に書けることだけでできてるわけじゃない。」
 はじめのうちは非ミステリでも俺はミステリとして読んでるぜ、という連載だったのに、いつの間にかこんなふうになっちゃいましたね。当初からの目論見どおりなのか、読み間違いの件でよっぽど誰かにぼろくそに批判されたのか。
 

「翻訳ミステリ応援団!(第4回)」北上次郎×田口俊樹×鈴木恵・羽田詩津子・横山啓明
 今回は翻訳者。意外なことに今まででいちばん盛り上がってないように感じます。まあ翻訳者にできることなんて、いい翻訳をするくらいしかないし、でもそれが翻訳小説の売り上げに直結するわけでもないですしねえ。何とも言いようがなかったんでしょうね。
 

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第20回 レボリューショナリー・ロード)松下祥子

「日本映画のミステリライターズ」(第36回「大林宣彦(II)と『理由』)石上三登志
 

「旅人本の虫レベ(20)」レベッカ・スーター
 綱吉時代の与力サノ・イチローが主人公のアメリカ小説が紹介されてます。
 

「夢幻紳士 回帰篇(第十二話)幽霊船 前篇」高橋葉介

「郭公の盤(10)」牧野修田中啓文
 

「夜の放浪者たち 第56回 小栗虫太郎黒死館殺人事件』(後篇)」野崎六助
 こうして評論を読んでいるだけでも、「太陽系の内惑星軌道半径」だの「猶太的犯罪」だの「頭蓋鱗様部及顳顬窩畸形者」だの、ムチャクチャですね(^_^; 面白いなァ。
 

「仁賀克雄のできるまで(4)」仁賀克雄

「僕は長い昼と長い夜を過ごす(11)」小路幸也
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