『ロココの落日 デュバリー伯爵夫人と王妃マリ・アントワネット』飯塚信雄(文化出版局)★★★★☆

 コンパクトにまとめられた、デュバリー夫人とマリ・アントワネットの評伝です。日本人が書いた本なので、評伝の翻訳特有の読みにくさもありません。ただし、あとがきにも書いてあるとおり『デュ・バリー夫人回想録』というフィクションをもとにした部分もあるので注意が必要です。

 単なる人物伝ではなく、たとえばファッションについてページが割かれてあって、でもファッションも革命に無関係というわけではなく、経済がファッションにも大きな影響を受けていることがわかって面白いです。市民による産業が力をつけていたからこそ、経済の浮沈が市民を直撃し、市民の反体制感情がさらに高まったという側面は、歴史の教科書では教えてくれません。

 著者はあまり人物評価めいたことは書いていませんが、どちらかというとデュバリー夫人もマリ・アントワネットもルイ十六世も、三人とも人は良かったけれど政治家としての能力に欠けていた、という立場のようです。なんか、三人とも、ことごとく馬鹿な方向性ばかり選んでしまっている。。。

 とはいっても、当事者にとってはそれほど危機感がなかったのかもしれない……と思わせるのが、革命当時の様子です。「実際には、ロココの明るい華麗さが、革命によって、一気に吹きはらわれ、市民生活のなかに緊張がみなぎっていたわけではなかった」。当たり前といえば当たり前なのですが、こういうのは意外と盲点です。今みたいにテレビでニュースをやっているわけでもないだろうしなあ。

 マリ・アントワネットの伝記はけっこうありますが、デュバリー夫人の邦訳資料はあんまり見つからなかったので、その点でも価値のある本です。

 
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