「My Favorite SF(46)」津原泰水
「小川一水インタビュウ 『天冥の標』開幕!」
「J・G・バラード追悼特集」★★★★★
「太陽からの知らせ」J・G・バラード/柳下毅一郎訳(News from the Sun,J. G. Ballard,1984)
――老宇宙飛行士の病状を見ていると、フランクリンは自分自身の加速しつつある遁走のことを思い出さずにはいられなかった。あと六ヵ月もすれば一日にわずか一時間しか目覚めていないだろう。遁走はきわめてすばやく訪れ、時間は人生の割れたガラスから流れ出すようにこぼれ落ちていった。
本邦初訳。バラード作品のなかでも、こうした、モロにドラッグ小説みたいな作品は苦手です。「自分の惑星を離れて外宇宙に旅立つことで、人は進化的な罪をはたらいた。(中略)それゆえに彼らは時間の世界から追放されてしまったのだ。」こんな感傷的なところがよかったりもする。
「コーラルDの雲の彫刻師」J・G・バラード/浅倉久志訳(The Cloud-Sculptors of Coral D,J. G. Barrald,1966)
――「沃化銀を使えば、あの雲に彫刻できるな」こうして、コーラルDの彫刻師グループは結成された。それから二ヵ月後、レオノーラ・シャネルに会うことになるあの日、ノーランが彫ったのは白い髑髏のイメージだった。
ヴァーミリオン・サンズもの再録。たいてい変人なセレブ美女が登場する。まったり系。
「ZODIAC2000」J・G・バラード/増田まもる訳(ZODIAC 2000,J. G. Ballard,1978)
――ポラロイド座。天空はすべるように動いていた。テレビ局クルーが病院の駐車場に到着し、双眼鏡で精神病棟の高層階をうかがっていた。こうした注視に疲れ果てて、彼はブラインドを降ろした。
改訳版。新しい黄道十二星座に沿って綴られる狂人の世界。結びの一文からしても、「太陽からの知らせ」同様に新しい認識による(ドラッグ的狂人的な)新しい世界を肯定的にとらえているようで、そういうところはどうも馴染めない。
「メイ・ウエストの乳房縮小手術」J・G・バラード/増田まもる訳(Mae West's Reduction Mammoplasty,J. G. Ballard,1970)
――メイ・ウエストの乳房のサイズの縮小は、かなり重大な外科手術の課題を提示した。配慮すべきことはたくさんあった。ミス・ウエストの年齢、乳房の肥大のタイプ、症状は純型肥大の一例かどうか、現在の下垂の程度、実際の肥大の規模、そして最後に、乳房の組織そのものに病変が存在するかどうかである。
アメリカ(ハリウッド)では巨乳じゃなきゃ売れない(使われない)というのを思い出す。メイ・ウェストの代わりに、いま活躍しているハリウッド女優の名前を当てはめてみてもまったく問題ない(はず)。
「真珠湾攻撃の内宇宙―バラードまたはSF史の変容― 追悼評論」巽孝之
日本におけるバラードというか、日本とバラードの関わりというか、こじつけでないにしても個人的すぎるところも。
「やさしいバラード バラード読書ガイド」牧眞司
「バラードの作品は難解」「初心者には薦められない」にもの申す。「内宇宙」=「心理」「内面」じゃない!という大前提から。
追悼エッセイ「J・G・バラード」マイクル・ムアコック/中村融訳、「J・G・バラードの文体」荒巻義男、「苦い思い出」伊藤典夫
「J・G・バラード著作リスト&自作コメント(改訂版)」柳下毅一郎編訳
「大森望の新SF観光局」9 『ザ・ストレイン』vs『狂乱西葛西日記20世紀remix』新刊宣伝対決
「SFまで100000光年 74 四角い宇宙では」水玉螢之丞
「SF Magazine Gallery II(5)」野川いずみ「夢占」
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
◆ライトノベルでは、「セーブ&リセットの手詰まりと、その解決方法は、SF者としてはぜひ読んでおきたい」という、鮎川歩『クイックセーブ&ロード』、「設定の細かなつくりが絶妙で、しかもそれがストーリイに生かされている。全体に上手い! とうならされる」六塚光『Le;O』が気になるところ。
◆海外SFではジャック・ヴァンス『ノパルガース』が出ました。買ったら買ったで損はないが、読まないなら読まないでも後悔はしない、そんな作品でした。クラーク・アシュトン・スミス『ゾティーク幻妖怪異譚』も、ジャック・ヴァンス同様、名前を言っただけで、「ああ」とピンと来るような独特の作品世界の持ち主。余裕があれば買いたいところです(SFというかホラーだけど)。
◆牧眞司氏が紹介しているユーリ・ツェー『シルフ警視と宇宙の謎』は、ハヤカワepiブック・プラネットからの新刊。ミステリマガジンで風間賢二氏も紹介していました。これはよっぽどの傑作なのか、この時期に文学系の作品がこれくらいしか出版されなかったのか。
◆長山靖生氏紹介の西秋生『ハイカラ神戸幻視行 コスモポリタンと美少女の都へ』は、「未来的でファンタジックな神戸の懐かしい景色を、歴史と文学と現状から旅した好著」とのこと。SF/ファンタジー的には、足穂「トアホテル」のモデルとおぼしき「東亜ホテル」のたたずまいに、興味をひかれます。
『魔京』(21)朝松健
『怨讐星域』(12)「失われし時を求めて」梶尾真治
――悪役アジソンを演じるのにふさわしい男がみつかったのだが、その正体は?(袖惹句より)
ほとんど細かいストーリーを忘れていたというのもあるけれど、けっこうびっくりした。SFなんだからそういうこともあって当然なんだけど。幾世代も経て「スナーク」はすでに絶滅しており、「正確な姿形や鳴き声は誰も知らない」という設定に、くすり。これぞスナークです。
『天国と地獄の狭間』(7)「カルラ」小林泰三
「おまかせ!レスキュー Vol.137」横山えいじ
「『イリュミナシオン』で目指したもの 山田正紀インタビュウ」
「デッド・フューチャーRemix(85)」永瀬唯
「(They Call Me)TREKDADDY(Log.31)」丸屋九兵衛
「サイバーカルチャートレンド(5)メモリ」大野典宏
「サはサイエンスのサ 175(公衆衛生上のリスクと個人の脅威)」鹿野司
「センス・オブ・リアリティ」
金子隆一「さだめは死」、香山リカ「新しい政権に対して思うこと」
READER'S STROY「今ひとたび旅立たん」松田茂美
「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2009.4〜2009.7/8》東茅子
『SFマガジン』にも訳載された「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」のアダム=トロイ・カストロの二篇が面白そう。4月号のが「月の裏側の決闘」(Gunfight to Farside)。月版『OK牧場の決闘』の当事者に会った語り手は、あることが気にかかっていた。「あの日、銃撃戦以外に何が起きたのかが。」。ネビュラ賞候補「日曜の晩はミニーとアールの家でヤム芋料理を」(Sunday Night Yams at Minnie and Earl's)の続編で、「予想を裏切る驚きの展開続き」だそうです。5月号のが「チ星人の批評」(Among the Tchi)。「地球の文学作品をとことん嫌う異星人が、なにも知らない地球人作家たちを惑星に招いては重箱の隅をつつくような批判を浴びせかけ、作家たちが精神的にまいっていく様子を楽しんでいる」「評論SF」。
「ナルキッソスたち」森奈津子
---------------------
『SFマガジン』2009年11月号
オンライン書店bk1で詳細を見る。
amazon.co.jp で詳細を見る。