『論語の新しい読み方』宮崎市定/礪波護編(岩波現代文庫)★★★☆☆

 論語を「歴史的に」読もうという試みを綴ったものです。

 「歴史的」とはどういうことかというと、要は「テクストを読む」ということに近いのだと思います。テクストを詳細に読んで疑問点を洗い出し、比較考証して読み方を探る。これまではどうしても論語ファンダメンタリスト的な読み方をされていたために、疑問点を解消しようとして無理な解釈をして、矛盾が生じたり意味不明になったりしていた部分があるのだといいます。

 著者が取った方法は、具体的には――

 1.用例を比較して、誤字・脱字を特定する。

 2.儒教的な発想に基づく解釈にこじつけるのをやめる。

 3.用例や他の引用部分を比較して、引用箇所を特定する。

 4.用例を比較して、単語の切れ目を改める。

 おおざっぱに言えば、たとえば対句であるはずの部分のバランスが悪かったなら、そこに脱字があるのだろうな、というのは自明です。

 著者はおかしな文章に当たったら、まずは論語漢籍から似た表現を探します。そうして、いわば論語の口癖・一定のパターンを見つけ出し、それに沿った解釈を試みるのです。これは説得力があります。

 微妙なのは「2」でしょうか。何が自然で何が不自然か、こればっかりはその人個人の感覚的なものなので、「儒教的なこじつけ」批判としては力を持ち得ても、「新しい読み方」としての説得力は残念ながら五十歩百歩と言わざるを得ません。(著者は歴史学者なので、古代中国にアドバンテージがあるとはいえ)。

 ……とまあ、第一部の途中まではこのように考察していくのが面白かったのですが、そこからあとは論語の読書会風景とか、論語にまつわるエッセイとかになってしまったのが残念です。
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