『ミステリマガジン』2010年2月号No.648【受賞作&話題の作家最新事情】

「迷宮解体新書26 永瀬隼人」

「トマス・H・クック創作について語る」

「Another 綾辻行人インタヴュー」
 

「夜に変わるもの」デイナ・キャメロン/東野さやか訳(The Night Things Changed,Dana Cameron,2008)
 ――人狼の私立探偵は、かつて出会ったことがないほどの邪悪な臭いを嗅ぎつけた。(袖コピーより)

 アガサ賞&マカヴィティ賞受賞。パラノーマル・ロマンスみたい。
 

「ドギー・ドーナツ」ドン・ウィンズロウ対馬妙訳(Douggie Doughnuts,Don Winslow,2003)★★★☆☆
 ――父の通夜の日、ダグ・デイのところにフランク・キングがやって来た。「おやじさんに金を貸していてね。おまえは資産だけでなく、負債も相続する」「おれが?」こうしてダグは毎朝〈キング不動産〉にドーナツを届けることになった。

 父親の借金のかたにギャング(?)の子分みたいなことをやらされるはめになった不運な男。「便宜」のために飼い殺しにする手口がスマートで、へんなところに感心してしまった。
 

「初めに『黒死館殺人事件』?」北村薫ほかエッセイ

「死は暴走する」ドゥエイン・スウィアジンスキー/公手成幸訳(Death Runs Faster,Duane Swierczynski,2008)★★★☆☆
 ――きょう死ぬことがわかっていたら、いちばんいいTシャツは着ないもんだ。あんたは市庁舎の警備員をしている。給料待ちの行列は、玄関ドアの外までのびる。なにせ、クリスマス・イヴ。いちばんいいTシャツを着てきたのはいいことだ。あんたの連れのペティは、自分はギャングだと考えている。そうかもしれない。

 『メアリー−ケイト』の著者です。「万事順調」なクリスマス・ストーリー。〈シャーロック・ホームズ・セキュリティ〉というネーミング・センスだけでもたまらなく可笑しい。
 

「バッド・ラックを一杯分」ショーン・チャーコーヴァー/三角和代訳(One Serving of Bad Luck,Sean Chercover,2008)★★★☆☆
 ――セーラ・シップマンは休暇中に、オイルとタイヤの高官のためジュノー・オートセンターに寄った。一時間後に車を引きとり、運転中に右の前輪がはずれ、車は橋梁に激突した。セーラは腰から下が麻痺した。整備を担当したジョージ・ガルシアから話を聞かねばならない。おれの務めは彼を見つけて証人陳述書をとることだった。

 フィルの身の上話とか、ジョージの行きつけの酒場の常連の話とか、ジョージの奥さんの上昇志向とか、どうでもいいっちゃどうでもいい話のモザイクでできているいかにもな私立探偵小説。
 

「独楽日記(第26回)ここからは誰も出られません――「イングロリアス・バスターズ」」佐藤亜紀
 「へたうま」について。たけしのたとえはわかりやすい。
 

「誰が少年探偵団を殺そうと。」18 千野帽子「語り手の居場所。」
 ナボコフ『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』など。ナボコフはふつうにミステリみたいに楽しめる。
 

「虚実往還(6)犯罪は病気そのものじゃない。ただの症状なんだ。」吉岡忍。
 取り上げられているのはチャンドラー。マーロウのナレーションとジャーナリズムの違いを「現実への関与」だと指摘するチャンドラー観が面白い。
 

「Dr.向井のアメリカ解剖室(14)」向井万起男

「トーキョー・ミステリ・スクール(2)」石上三登志

『青光の街《ブルーライト・タウン》』(1)柴田よしき
 

「翻訳ミステリ応援団!(7)」田口俊樹×北上次郎×大学ミステリ研究会
 大学生のファッション・センスが気になる……。大学生のころは新刊は買えないというのはよくわかります。
 

「書評など」
◆映画では『パーフェクト・ゲッタウェイ』が面白そう。「概略を紹介したくなるのだが、気をつけないと(中略)ネタバラシをやらかす羽目になる」。小説の紹介でこう書かれると、何となく見当がついてしまうのだけど、映画だとどういうことなんだろう。

◆アジア本格リーグの第4巻天一色『蝶の夢』は面白かったです、はい。仰る通り「SFやファンタジイ方面の人、という先入観を持」っていました、ニール・ゲイマン『壊れやすいもの』は「幻想作品集」だというので俄然気になります。

◆ほかに『追われる男』の続編ジェフリー・ハウスホールド『祖国なき男』島田荘司チルドレンによる奇想の「物量作戦」小島正樹『武家屋敷の殺人』日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作家越谷オサム『空色メモリ』日本ホラー小説大賞を短篇で射とめた宮ノ川顕『化身』など。

「文芸とミステリのはざま」風間賢二で紹介されているのはジェイソン・カーター・イートン『ほどほどにちっちゃい男の子とファクトラッカーの秘密』。「全五十章のうち、十三章は不吉だから語らないとか、二十二章で〈ジ・エンド〉になってしまったり、「この章はおそろしいから読まないほうがいい」といった章まであったりする」というところがものすごくわたし好みかも。

「SFレビュー」大森望で紹介されているのは神林長平トリビュート』。正直言って半数が知らない作家なのが手に取りづらいところ。辻村深月の意外性と、円城塔桜坂洋の実力、未知の四名の期待値に賭けるか。
 

「旅人本の虫レベ(26)ものの哀れのミステリ」レベッカ・スーター
 与力サノ・イチローに続いて、また日本が舞台の作品が紹介されています。トッド・シモダ『Oh! A Mystery of Mono no Aware』。

「顔のない女(2)歌い手《シンガー》」高橋葉介

ジョルジュ・シムノン 小説家と愛娘の異常な愛(4)」長島良三

「幻島はるかなり 翻訳ミステリ回顧録(2)」紀田順一郎
 

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第26回 ダイヤルM)松下祥子
 『ダイヤルMを廻せ!』(Dial M for Murder)の「M」は本当にMそのものでもあったという話。戯曲版の舞台になっている地域の電話番号が「M(6)」で始まるんだそうです。
 

「お茶の間TV劇場(18)」千葉豹一郎

『トッカン 特別国税徴収官(最終回)』高殿円

「海外話題作&ミステリ雑記」池上冬樹関口苑生

『郭公の盤(最終回)』牧野修田中啓文

「ヴィンテージ作家の軌跡(82)」直井明

「紙の砦の木鐸たちの系譜(18)」井家上隆幸

「夜の放浪者たち 第62回 井上光晴(前)」野崎六助

「仁賀克雄のできるまで(10)」
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