『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』逸名作家/池上俊一訳(講談社学術文庫)★★★★☆

 東方遠征に向かったアレクサンドロス大王アリストテレス宛に東方の国々を紹介した手紙、と、東方にあるキリスト教国の王プレスター・ジョンがヨーロッパの指導者に送った手紙(ラテン語版・古フランス語版)、という設定の偽書が三篇収められています。

 実態は秘境探検みたいなもので、豪華な宮殿・獰猛な蛮族・奇怪な動植鉱物などなどが次から次へと紹介されてて、ヒジョーにばかばかしくて楽しい。

 登場する動物のうち、豹やライオン、あるいはグリフォンや不死鳥なら説明抜きでもわかるのですが、説明抜きで名前だけが列挙されている動物というのは、もしかすると当時はメジャーな動物だったのでしょうか。カメテテルヌスやティレンシタ……いったいどんな動物だったのか、気になりました。でも元がラテン語だということは、豹などもおそらく「パンテラパルドゥス」とか書かれてるのでしょう、同じように「カメテテルヌス」あたりも実は全然フツーの動物だったりするのかも。

 面白いのは、本書を読んでも「プレスター・ジョン伝説」自体はよくわからないところです。たぶん要するに、東方にもキリスト教国があって十字軍を助けてくれる――という伝説がまずあって、じゃあそのキリスト教国ってどんな国?という想像をふくらませて書かれたのが本書なのでしょうが、何しろその実態は、ただの奇妙なもの博覧会。アマゾネス族の話やゴグとマゴグの話、光の石や闇の石、波打つ砂の海、貢ぎ物は龍だとか、嘘をついたら誰もがその人を存在しないと見なすので嘘をつく者がいないだとか、ライオンと一角獣の戦い方とか、奇妙な蛇退治と胡椒の取り入れ方(一石二鳥?なのか?)とか、そんなのばかり(^^。

 まあどこにあろうと、どんな国であろうと、いいんですよね、きっと。

 謎のキリスト教王国を支配する「インド」の王中の王ヨハネ=プレスター・ジョンから西方の皇帝宛の書簡と、東邦大遠征の途次にアレクサンドロス大王アリストテレスに送った手紙。そこに描かれる乳と蜜の流れる東方の楽園には、黄金と象牙と宝石が溢れる壮麗な王宮が煌めく。一方で鰐皮の蟹、犬頭人など奇怪な動植物や人種が跋扈する。東方幻想に中世人の想像界の深奥を読み解く。(カバー裏紹介文より)

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 『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』


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