『平家物語(一・二) 日本古典文学全集29・30』市古貞次校注・訳(小学館)

 岩波の旧大系と比べて、小学館の旧全集は古本屋でごろごろと見つかります。帯に「2000万家庭におくる」だなんて書かれてあるところを見ると、あるいは全集ブームのころに飛ぶように売れたのかもしれません。

 一巻の途中までが平家の横暴、あとは没落の一途をたどるのですが、平家に力があった時代のエピソードの方がわたしは好きでした。清盛をはじめとした平家一門が調子に乗って、重盛一人が抑え役――お約束ではあるのですが、メリハリが利いていてここらへんのやり取りは読んでいて面白かった。有名な俊寛のエピソードも読めますし(けっこう俊寛はひどい人間に描かれてます)、卒塔婆流しの和歌にはほろりとさせられました。赦免状に名前を探す場面なんてものすごく演劇的物語的で、古典とは思えないくらいです。高倉宮が討たれたとき、誰も宮の顔を知らないというのも、現代の生活に慣れている人間からすると、どきっとしました。ものすごくリアルに感じられる。叡山の大衆などは今の目からみるとただの圧力団体なのですが、宗教という大義名分が本当に大義であった時代なんでしょうね、きっと。

 後半になると、滅びの美学がずらずらと雪崩を打って登場します。ちょっと食傷気味だなあと思えば、なかには宗盛親子みたいになんだかぜんぜん美しくない人たちもいてアクセントが効いています。ここらへんの匙加減が上手いです。

 みんな馬や使いの者に気軽に焼き印押しすぎだよ……というのが気になりましたが、これもまた、アルセーヌ・ルパンものを読んでいてルパンが平気で犬を殺すことに違和感を感じるような、時代の違い・文化の違いなんでしょうねえ。。。気の利いた嫌がらせくらいの感覚なんでしょう。

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