泉鏡花が参加した百物語怪談会を中心に編んだアンソロジーです。個人的にはこれまでの特別篇のなかではいちばん楽しめました。
第一部には、喜多村禄郎が体験した、カバーイラストにもなっている怪談が、「怪談精霊祭」「恋物語(抄)」「浮舟」三者三様に収録されています。
「怪談精霊祭」は怪談会の様子を綴った新聞記事。怖がらせようというのではなく事実を簡潔に記しただけの、江戸怪談のような作品です。「しんみり」と悲恋を語った喜多村に答えて、「実に好い話しですね」とただただ怪談として評価する鏡花先生がキュートです(^_^。
「恋物語(抄)」は、上記喜多村の体験を、また別の企画で。これを読むと怪談でも何でもなく、ただの世間話みたいです。仮に実際はこんな出来事だったのだとすると、これを怪談に仕立て上げた話者のテクニックが光りますね。
「浮舟」は、上記喜多村の怪談にヒントを得て泉鏡花が書いた小説です。でもどちらかというと、上記の伊勢の怪談よりも「向島の怪談祭」で語られた京都の怪談に近いような気も。
「怪談精霊祭」にしても「向島の怪談祭」や「怪談会点景」にしても、語り口がざっくりとしていて怪談というより奇談雑談とう感じなのですが、「怪談聞書」には“怖い”怪談が収められています。なかには残酷譚や恐怖譚ともつかぬ話もありますが、「鴨居のところに、何か小さなものが載っているらしい。あんなところに何も載せたおぼえはないが、とよくよく見ると、それは人間の指八本が見えているのであった」というように、少なくともどこか一箇所、どきっとするような描写があってぞっとできます。そんななかでも「手には一本の指もなくて生姜のような形になっていた」という表現が絶妙このうえありませんでした。
「怪談会」「幽霊と怪談の座談会」はその名の通り怪談の座談会ですが、久保田万太郎や里見とんといった名前が珍しいように思います。芥川龍之介が通ぶりを発揮しているのが、さすがというか微笑ましいというか。疫病神や死神を睨んで追い返したという話のあとに、里見とんが「そう言われると……」と妹が死んだときの話をするのですが、その後「まさか死神だとは、今が今まで考えたこともありません。そうと知っていたら、あとのき、ぎゅッと睨みかえしておいたものを」と冗談を言うのが印象的でした。「体験」が「怪談」になった瞬間ですよね――。
その他「怪談の会と人」、松崎天民「友人一家の死」、巻末附録「吉原で怪談会」を収録。
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