『メフィスト』2009年Vol.3

 うわあ。しばらく離れていたあいだに、ついていけなくなってる。こっちが年とってると同時に向こうも幼児化してる気が。なんだこの座談会。。。

「死人を起こす」麻耶雄嵩 ★★★★★
 ――一年前のことだ。僕がまだ高三の夏。「面白い物件があるんだ」僕ら六人はその家に一泊して受験前にぱーっと遊ぶことにした。五人は小学校や中学校からのつきあいだったが、生野だけは父親の転勤でやって来た新参者だった。生野がグループに入った経緯は、あげはが彼を気に入ったからだった。あげはは色白の美人で、僕らのマドンナ的存在だった。

 目当てはこれ。メルカトル鮎ものの新作短篇(そして連載開始だそうです)。まさかメルカトルが登場するとは思えないような青春ものの趣でスタート。一つの事件の〈わかりやすい真相〉を目の前にちらつかせて視線を逸らしておいて、ほかの事件の(しかも意地の悪い)真相をおもむろに披露してみせる、上手くて底意地の悪いところは健在。しかも、いわゆる、〈掟破り〉を。その掟破りが、ずっこけたりせずにちゃんと決まってるんですよね。それから、斜め屋敷や時計館などミステリにはミステリならではの建築物がよく登場しますが、この作品も日本好きの外国人が造った〈間違った日本家屋〉だからこその事件でした。もっと自然な感じに溶け込ませるのではなく、わざわざこんな建物を登場させてしまう著者のひねくれたユーモア感覚がやめられません。カーや横溝を髣髴とさせるタイトルですが、もちろんメルなので、ひどい理由で「死人を起こ」しちゃいます(^_^;。
 

綾辻行人×有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(第9回)』

「袋小路の死神」栗本薫 ★★★☆☆
 ――山科警部は伊集院大介に事件を聞かせた。「二ヵ月ばかり前、S町で大滝裕二という十九歳の工員が、背中を刺されて死んだのですが、いろいろ妙な状況で――大滝は去年までは暴走族のアタマだったというんです」

 これは角川かどこかの密室ミステリ・アンソロジーで読んだことがありました。が、なにせ読んだ当時はミステリを読み始めたばかりのころなので、トリックがしょぼいという印象しかありませんでした。読み返してみると、これはなるほど「実行が可能だったのは意外な人物」(有栖川談)というのがポイントで、しかも「強い動機」も意外なもので、そのどちらも隠し方がうまいので感心させられました。
 

「虹への疾走」山村美沙 ★★★☆☆
 ――仕事にも慣れ、挙動不審な旅行者にはすぐ気がつくし、てきぱきと脱税品を摘発できるようにもなった。だが「池朱実」という落ち着きのない旅行者からは何も見つからなかった。ところが――テレビから「『海外旅行帰りの女性、殺される』女性のトランクからは、麻薬が見つかりました……」

 これは……(^ ^;。有栖川氏がむりやり盛り上げようとしているように感じるのは気のせいでしょうか。綾辻氏が「実際にあるんでしょうか」とおっしゃってますが、1.実際にあって、なおかつ 2.実際にこの道路を通ったことのある人にとってだけ意外な盲点になっているという、あまりにも読者を限定する作品でした。謎でも何でもない指紋のことを、発端で謎っぽく見せるのもずっこけました。
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