「佛國革命起源 西の洋《うみ》血潮の暴風《さあらし》」櫻田百衛(『明治文学全集5 明治政治小説集(一)』筑摩書房)

 アレクサンドル・デュマ『ジョゼフ・バルサモ』の翻案。原作の第二十章まで。単行本化名『西洋血潮小暴風』。

 訳文は講談風の名調子。

 序章に当たる部分はかなり原作に忠実に翻訳されています。冒頭の風景描写まできっちり訳されているのには驚きました。山のなかでバルサモを脅す会員たちが「國家の爲も丈夫の意地も。事理と時勢に依るものを。辨《わきまへ》もせず白面の……」などと一席ぶちはじめたり、結社の名前が「鮮血革命黨」だったり、バルサモの演説の内容が全然違ってたりするのはご愛敬。

 ところが第一章から第二十章までに当たる部分はかなりの駆け足。アルトタスもロレンツァも登場せずに、バルサモは馬車ではなく馬で移動。タヴェルネ男爵の昔話はもちろん、バルサモの催眠術や千里眼、ニコルとジルベールの痴話げんかなどはすっかりカットされています。いちばん面白い(と思う)バルサモの妖術すら大幅にカットされているのが、政治小説ゆえなのでしょう。

 作者逝去のため二十章で断絶していますが、宮崎夢柳が『鮮血の花』として続きを訳しています(解説では『バスチイユ(=アンジュ・ピトゥ)』の続編と書いていますが間違いで、『ジョゼフ・バルサモ』の続編です)。

 ウヮームの大街《まち》を五六里離れ。ライン河の左り岸。セルツ川の水源《みなもと》ちかく。北方《きた》になばへて水牛の。朝霧の間に群居ごとく。消ゆるに齊しく跡たれて。淡しく見《みゆ》る山脈ありけり。浪花の昔偲ばるゝ。高閣《たかきや》ならねど登りつゝ。眺望《のぞめ》ば烟雲遙々たる。……

 明治文学全集〈第5〉明治政治小説集 (1966年)
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