『S−Fマガジン』2010年08月号No.653【浅倉久志追悼】

「信号手」キース・ロバーツ/浅倉久志(The Signaller,Keith Roberts,1966)
 ――子供は草の中に寝そべり、信号機をながめていた。信号機は何人かで動かす巨大なもので、腕木が音を立ててゆるやかに上下するのだった。とつぜん肩に手を置かれて、子供はふりかえった。「ここでなにをしておった?」「あの……」「おぬしは信号が読めるのか?」「読めません……でも、習いたい」「ではついて来い」

 極寒の冬に凍えて倒れている冒頭から、少年の日の夏の思い出にすうっと切り替わる場面が、いかにも輝いていたあのころ、という感じでいいシーンでした。改変歴史ものの連作『パヴァーヌ』からの一篇。「一族」の存在があまりにも謎すぎるのですが、解説によると「話としては独立している」そうなので、おそらく一冊読んでもこれは謎のままなのでしょう。信号手という選ばれた専門職を目指す少年の物語。
 

「田園の女王」R・A・ラファティ浅倉久志(Interurban Queen,R. A. Rufferty,1970)
 ――わしは目はしのきく若者じゃった。遺産をうけつぎ、どんなふうに投資すればよいかと助言を仰いだ。将来性がありそうな二つに的をしぼった。新しく自動車というものがぼつぼつ普及しはじめたこともあり、一つはゴム会社。もう一つは鉄道会社じゃ。

 歴史改変ものが続く。「高慢」を否定して「成長」を拒否した未来は、理想的な田園都市……なのでしょうか?
 

「ドローデの方程式」リチャード・グラント/浅倉久志(Drode's Equations,Richard Grant,1981)
 ――ある日、古い書庫をあさっている最中にドローデの方程式を発見した。ドローデの方程式はすでに失われて久しく、かつてそれが存在したということさえ推測の地位にまで下落していた。この転落でさっそく被害にあったのは、いったいその方程式がどんなものであったかという正確な概念だ。

 どことなく円城塔を思わせないでもないように始まり、やがて方程式を理解した瞬間から鉄道旅行は、初めて見る景色に感動するような新発見の輝きや喜びが伝わってきます。
 

「このあらしの瞬間」ロジャー・ゼラズニイ浅倉久志(This Moment of the Strom,Roger Zelazny,1966)
 ――ラジオにはいる雑音が、ふだんよりやけに多い。そのほかに、やがて来たるべきものの前兆はなにもなかった。その朝のはじまりから、わたしの百三十個の眼《アイ》は、都市《ベティ》を見まもりつづけていた。とつぜん天が裂け、大瀑布の下にいるような感じになった。妊婦が丘の上で孤立し、陣痛で苦しんでいるという報告がはいった。飛行機でなんとか現場へ向かおうと努力をつづけたが、この暴風では……。

 何百年も眠って宇宙のあちこちを旅してきた男の、流れ者小説。腰を落ち着けることは許されず、また旅立ってゆきます。
 

「自転車の修繕」ジェローム・K・ジェローム浅倉久志(Overhauling Bicycle,Jerome K. Jerome,1900)
 ――彼「この前輪、よろけてるな。ネジまわし、あるかい?」ここできっぱり断ればよかったのだ。しかし、案外この男、自転車にくわしいんじゃないかな、という気もしないではなかった。彼はどこかのネジをはずし、とたんに十数個の小さな玉がばらばらところがった。「つかまえろ! 一つでもなくすと大変だ」

 『ボートの三人男』の続編『Three Men on Bummel』からの抜粋。知ったかぶりが巻き起こす恐ろしい破壊劇。
 

「SFのSは、ステキのS(1)」池澤春菜×coco
 『今日の早川さん』の声優さんの新連載エッセイ。
 

「SFまで100000光年 83」水玉螢之丞

「SF Magazine Gallery II(13)」加藤直之「時の塔8」
 

「MEDIA SHOW CASE」「SF BOOK SCOPE」
『創世の島』『変愛小説集2』『月が昇らなかった夜に』『突飛なるものの歴史』
 

「回転する木、または逃げる木」椎名誠《復活!椎名誠ニュートラル・コーナー20》

『零號琴(8)』飛浩隆

『怨讐星域(15)ノアズ・アークの怪物』梶尾真治
 

籘真千歳インタビュウ 『スワロウテイル人工少女販売処』刊行記念」
 『θ 11番ホームの妖精』著者の新作。
 

「SENSE OF REALITY」
 金子隆一「俺の血はネアンの血」/香山リカ「テクノ不安症の時代ふたたび」
 

「SF挿絵画家の系譜(52)野田弘志大橋博之

「サイバーカルチャートレンド(14)電池の話」大野典宏

「サはサイエンスのサ 183 ニセ科学とか」鹿野司

大森望の新SF観光局(15) アンソロジー、アンソロジー!」

「MAGAZINE REVIEW」〈インターゾーン〉誌《2010.1/2〜2010.3/4》川口晃太朗
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