「迷宮解体新書34 宮ノ川顕」
片岡氏がオーツが気になっているらしく、プチ・オーツ特集でもありました。
「片岡義男“捏造”語録」
「ドノヴァン、早く帰ってきて」片岡義男(1969)
――その青年は熱い陽光のなかに、立ったままでいた。警官が声をかけた。「いとこにキミと同じように陽焼けしている男がいてね。ベトナムから帰ったばかりなんだ」「帰ってきたばかりです、ボクも」
マッチョなO・ヘンリーがカタコトで書いたような怪作。冒頭の汗の描写がすごい。ギャグになりかねないところで踏みとどまって、暑さが伝わって来ます。
「ジョイス・キャロル・オーツはお手本になるか」片岡義男
「酷暑のバレンタイン」ジョイス・キャロル・オーツ/高山真由美訳(Valentine, July Heat Wave,Joyce Carol Oates,2007)
――きみのことはずっと愛してきたから、これからも愛しつづける。変節はぼくの流儀ではない。ぼくの専門は心の哲学だから、大事なのは“心”だ。別れることはできない。どうしてそんなことができる? きみはぼくの妻なのに。
語り手の一人称がそのままリアルタイムのナレーションになって動き出す場面はぞくぞくしました。伏線というよりむしろ初めから隠していなかったことに驚きです。
「ストーカー」ジョイス・キャロル・オーツ/宇佐川晶子訳(The Stalker,Joyce Carol Oates,1996)
――それが起きたあと。彼女は仕事を辞めた。拳銃。マチルドは銃の許可証を持っていた。心臓の鼓動は、もちろん、彼女の鼓動だ。でも彼の鼓動でもある。宿命。どうしてわたしたちはロマンティックな恋愛に焦がれるのかとマチルドは不思議に思った。
依頼人からストーカー行為を受けたカウンセラーのマチルドが、そこから暴力に、社会に、世界に、立ち向かおうとして心がすでに折れていました。
『さらば、俺たちの拳銃』(第1回)片岡義男
――60年代東京、ニューフェイスと呼ばれる俳優の卵ジョーとケニーの出会い。(袖惹句より)
日本映画がダサかっこよかった時代の俳優たちのプライベートを、映画のようにダサかっこよく描いた新連載。小路氏がエッセイで著者と矢作俊彦を並べていましたが、ああなるほど、どちらもこういう時代(限定)のかっこよさを共有しているんだろうな、と思います。
「米国暗黒小説全集発行計画」小鷹信光・諏訪部浩一・滝本誠・吉野仁
ミステリ全集やSF全集につづいて、(架空の)ノワール全集の企画です。未訳の秀作がたくさんあることに気づいたのがきっかけなので、基本的に未訳作品が紹介されています。全集という形では無理でも、いくつかは邦訳されそうなんじゃないかと期待します。ポケミス名画座みたいな感じのシリーズ内シリーズででも。
「私のアメリカ雑記帖(5)フィルム・ノワールの創世記」小鷹信光
「幻談の骨法(2)超自然と「ためらい」。」千野帽子
今回は主にトドロフの紹介。
「Dr. 向井のアメリカ解剖室(22)」
「独楽日記(34)夏休み恒例アニメ対決」佐藤亜紀
結局そこかあ(^_^;。『ヒックとドラゴン』は空中戦がすごい、と佐藤亜紀がいうのだから信頼できます。
「トーキョー・ミステリ・スクール(10)」石上三登志
「建築視線(4)最後の手段は目の前に」安井俊夫
今回はドゥエイン・スウィアジンスキー『解雇手当』。閉じ込められたオフィスからどうやって逃げるか、という視点から高層建築を。
「海外本格座談会」法月綸太郎・川出正樹・杉江松恋
これは最近の翻訳ミステリ応援団etc.とは関係なく、本格ミステリ作家クラブの10周年記念だそうです。
「DILATED TO MEET YOU―開かせていただき光栄です―」(第02回)皆川博子
――「ティンダルさんの店を教えてほしいんだけど」田舎から出てきたネイサンは、ナイジェルとエドという親切な青年に道を聞いて、自作の詩の草稿を持ち込みに行った。そこで店に本を見に来たエレイン嬢に恋に落ちて……。
どうやらゴシップ紙の記者になりそうなネイサン。世事には疎そうなバートン先生パートに代わって、これからそっち方面の情報を担当することになりそうな感じですが、果たして。
『あとは沈黙の犬』(第4回)矢作俊彦
「顔のない女(10)ドリーム・キャッチャー」高橋葉介
「書評など」
◆ジャン=ピエール・ジュネの新作『ミックマック』が公開されるそうです。
◆DVDは、『運命にさからったシチリアの少女』。実話をもとにした、シチリア・マフィアに刃向かった少女の映画。
◆ゲームは『ゴーストトリック』。
「ミステリ・ヴォイス・UK」(第34回 スティーグ・ラーソンと〈ミレニアム〉)松下祥子
「幻島はるかなり 翻訳ミステリ回想録(10)」紀田順一郎
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『ミステリマガジン』2010年10月号
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