『美術館の鼠 アジア本格リーグ3』李垠/きむふな訳(講談社)★★☆☆☆

 韓国ミステリ。

 これはわたしには読むのが辛かった。

 「(韓国人名に馴染みのないせいで)登場人物の名前が覚えにくい」+「どんな人物なのかが文章からだけでは窺い知れない」+「翻訳文が教科書的」なせいで、男も女も若者も年寄りもみんな同じに見えるうえに、ものすごい勢いで場面がころころ変わるので、誰が誰やらで、中盤あたりまで読むの自体がしんどかったです。

 明らかに重大そうに思える書類を風で飛ばされるという、ギャグみたいな展開が前半の読みどころ。

 中盤あたりからようやく「謎解き」らしきものが登場して、面白くなってきました。ところが意外や意外、『ダ・ヴィンチ・コード』的なミステリだと思わせておいて、それはある意味ミスディレクション。実際の美術論文にインスピレーションを受けた云々という著者によるエピグラフすら、誤誘導だったのかも。悪く言えば有機的に結びついていないだけなんですが。

 そして〈驚愕〉の真相! 普通であればどう考えてもルーフォック・オルメス級のナンセンスにしか思えないような犯罪が、犯人の思想でもあり本書のテーマでもある「芸術」観としっかり結びついた皮肉な真相になってはいます。

 全体としては〈絵画〉ミステリではなく、〈美術界〉ミステリでした。

 母語が韓国語の人が日本語に訳しているので、「精度の高い機械翻訳」みたいな文章でした。

 ところで解説を読むと、韓国ミステリって意外と訳されているんですね。どれも冒険小説系っぽいですが。

 チョンノ美術館の館長パク・キリョンは、世界的な巨匠イム・ヨンスク回顧展の開催初日、館長室で自殺をとげる。その直前、パク館長は新進画家のキム・ジュンギに「美術館の鼠」という題の原稿とイムの画集を手渡し、謎めいたメッセージを残していた。館長の死は美術界を震撼させ、重鎮画家の不可解な事故死や失踪という一年前の事件にもあらためて捜査の目が向けられる。純粋たるべき芸術の世界にひそむ〈鼠〉の正体とは? 深まる謎を解く手がかりは、一枚の絵に隠されていた……。韓国で大きな話題を呼んだ傑作アート・ミステリー。(カバー袖あらすじより)
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