『ハムレット・シンドローム』樺山三英(小学館ガガガ文庫)★★★★★

 正確には跳訳シリーズではないらしく、久生十蘭というクレジットはどこにもありませんが、あとがきには「刺客」「ハムレット」を翻案した、とあります。というか、樺山氏は『SFマガジン』でも本歌取りのシリーズを連載しているし、デビュー作も『エミール』なわけで、跳訳とは無関係に樺山氏のお家芸なのでしょう。

 久生十蘭×樺山三英でいったいどんなライトノベルになるのかと思っていたら、案に違わず全然ラノベじゃありませんでした。(アユコの残酷キャラが多少ぽいといえばぽい)。

 おおよそのストーリーは「刺客」『エンリコ四世』路線をなぞっていて、するとソフエがどうなったのかは「刺客」と同様なのだと考えていい……ような気もしますが……。

 ところがここから、アユコ・ヘソムラ・コマツアリマサ・コトコが一人一人語り手を務め出して、それにしたがいほんとうなら補強されるはずの現実がますますぐらついてしまうことになります。

 さらには作中で上演されることになっている劇のタイトルが「ハムレット・シンドローム」で、この作品の名前も『ハムレット・シンドローム』という、これまたどこまでが外枠なのか考え出すと頭が痛くなるような構成。

 ハムレットとエンリコ四世を結びつけたのは十蘭の手柄ですが、そこに「藪の中」を加えたのが本書のポイント。そうすることでさらに混沌とした状況が作り出されています。

 樺山作品は本歌取りばかりなので、巻末の参考文献は必読なのだろうな……と思いつつ。

 雨雲が低く垂れ込める昼下がり、ぼくはハムレットの城にやってきた。演劇中の事故以来、自分をハムレットだと言い続ける男の住処に。彼が正気かたしかめるよう、依頼を受けて。『ハムレット』の宮殿を再現したようなその奇妙な場所で、ぼくはローゼンクランツを演じる。ハムレットの学友にして、目付け役。けれどハムレットは死んだ。短刀で背中を一突きにされ、明け方の居間にうずくまり冷たくなっていた。殺したのは……ぼく? ぼくまでがおかしくなったのか? きみはこの城に、来てはいけない。嘘に呑まれた、虜になるから。(カバー裏あらすじより)
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