『Salmon Fishing in the Yemen』Paul Torday,2007年。
砂漠の国イエメンで鮭釣りができるようにしようというプロジェクトの顛末を描いた、政治風刺ユーモア小説です。
さまざまな文章で構成された作品で、それぞれの立場からの思惑が本音や外面で語られるだけなのに、めっぽう面白い。
政治的理由でプロジェクトを進める首相の右腕も、依頼人や実行メンバーからするとまったく事情がわかっていない頓珍漢な人扱いでけちょんけちょん。というか、誤爆のニュースをごまかすために鮭プロジェクトに話題を逸らすってのがもう完全におバカで。そんな人だから、生簀の鮭を見て、野生動物は凄い!とピントのずれた社交辞令。挙げ句にインタビューで得意げに「何千匹もの鮭が跳ね回っていましたが(中略)この場所をご紹介しますよ」。もちろんインタビュアーは、まさか生簀のことだとは露思わず。
万事がこんな調子で、誰かが何かを別角度から好き勝手に解釈。科学的には大成功って……。
何やら「事件」が起こったらしく途中から事情聴取が挟まれはじめます。「事件」とは何なのか?
いろいろな文章が採用されているわけは、なるほど最後の最後になってこういう構成だったのか、と納得。
だけどジョーンズ博士の日記だけはどう贔屓目に読んでも日記とは思えないただの一人称小説で、まあそのおかげで読みやすくてとっつきやすくなっているので結果オーライでしょうか。
しかしこの結末は、十年後くらいに「実は……」とリアリティ無視の続編が出ても面白そうだなあ。
アルフレッド(フレッド)・ジョーンズ博士は、研究一筋の真面目な学者。水産資源の保護を担当する政府機関、国立水産研究所(NCFE)に勤めている。ある日、イエメン人の富豪シャイフ・ムハンマドから、母国の川に鮭を導入するため力を貸してもらえまいかという依頼がNCFEに届く。
フレッドは、およそ不可能とけんもほろろの返事を出すが、この計画になんと首相官邸が興味を示す。次第にプロジェクトに巻き込まれていくフレッドたちを待ち受けていたものは? 手紙、eメール、日記、新聞・雑誌、議事録、未刊行の自伝などさまざまな文書から、奇想天外な計画の顛末が徐々に明らかにされていく。(カバー裏あらすじより)
------------------
『イエメンで鮭釣りを』
オンライン書店bk1で詳細を見る。
amazon.co.jp で詳細を見る。