『S-Fマガジン』2010年12月号No.657【冲方丁特集】

 今月号はみっちり詰まっていて読みごたえがありました。

 冲方丁特集は、シリーズ第3作・完結編『マルドゥック・アノニマス』の予告編。衝撃的な場面から幕を開けます。

 完全版刊行とアニメ公開によせて、それぞれ塩澤元SFM編集長と、声優の林原めぐみ氏と、監督の工藤進氏と、語り尽くす語り倒す。本人にこれだけ語られたあとでは、第三者による映画合評や評論の影が薄い薄い。
 

 巽孝之による国際幻想芸術会議(ICFA)講演を採録。ブラックユーモアについて。オールディス「リトル・ボーイ再び」をはじめとした原爆文学を中心に。九・一一を経て「『グラウンド・ゼロ』なる濫喩が自然化してしまった」現状、「現代文学にブラックユーモアが自然化されたからには、いかにすれば破壊的想像力の原初的エネルギーを回復できるでしょうか?」。現実にSF的視点を導入。
 

「[新版]世界SF全集を編む」大森望×中村融×山岸真(第4回)
 ティプトリーの未訳作と、『人間以上』の新訳は読みたいな。
 

書評など
 サラ・ウォーターズ『エアーズ家の没落』は傑作でした。ピンチョン『逆光』こっちが先に出ていてくれれば……柴田訳があれだったんで。E・ポール・ゼーア『バットマンになる!』は、「飽くまで人間である」バットマンになるには、を科学的に検証した本。『空想科学読本』などよりはもっと真面目な科学書っぽい様子。
 

「もし、早カゴの人、光速ロケットが帰ってきましたよ。」椎名誠《復活!椎名誠ニュートラル・コーナー22》
 長時間駕籠に揺られて闘いの現場に駆けつけても、足が固まっちゃっているので降りてすぐは戦えないよ、という実体験に基づくいかにもシーナさんらしい指摘。そして「空中都市」の想像図と、酔狂人が試作した巨大飛行艇の見た目がほぼ同じであることに気づくシーナさん。つまり想像図が合理的だったということなのか、でも試作は失敗したんだから合理的じゃなかったのか。
 

 樺山三英は「華氏四五一度」で最終回。

大森望の新SF観光局(17) 続・アンソロジー、アンソロジー!」
 

「SENSE OF REALITY」
「吹けよ風、呼べよ嵐」金子隆一……海面温度を下げることで台風の針路を変えることに成功したシミュレーションの話と、潜水艦を使って同じようなことをする特許を取った日本企業の話。
 

「『華竜の宮』刊行記念 上田早夕里インタビュウ」
 

「ジェイムズ・P・ホーガン追悼特集」
 ひっそりと巻末で第二特集されていました。「プリンセスに銀の靴を」(Silver Shoes for a Princess,1979,内田昌之訳)。人類なきあと残された機械精神が意識を持ち始め、自分たちはどこから来たかを問い始めたことで、ある仮説が生まれ……。その他、各者追悼エッセイと邦訳長篇ガイド。『星を継ぐ者』しか読んでないんだけど、そのときの感想は「かわいい」だった。『創世記機械』と、「トンデモ」と評された『揺籃の星』が読みたくなりました。
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  『SFマガジン』2010年12月
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