「収束」麻耶雄嵩 ★★★★★
――後に連続射殺事件としてマスコミを賑わすことになる洋館に、メルカトルと私が訪れたのは、九月も半ばのことだった。現在の所有者は小針満英。五年前、突如宗教家に転身し、今は彼を信奉している五人の若者と二人の使用人とともに、島で共同生活を送っているらしい。盗まれた「祝福の書」を取り返すために家政婦として潜入した娘を連れ戻してほしい――というのがメルカトルへの依頼だった。一方小針の方でも、島内に不審な人物がいるから調べてほしい、と依頼があった。
これはまた(^_^。冒頭を読んだかぎりではどう見ても玉突き殺人かと思ったら、実は何と三択でした。それにつけても、いつにも増してメルの鬼畜っぷりが凄い。死体を動かす理由がこれまでにないパターン(少なくともわたしは知らない)で、犯人の思考回路も何だかメルなみです。〈メルカトルかく語りき〉は本篇で連載終了。
『夜と霧の誘拐』(3)笠井潔 ★★★★★
――お金が目的なら、ルドリュ氏には奥さんを殺害する理由がない。編集長も愛人も、揃って同じことを口にした。情事がばれても離婚にはならないし、これまで通り経済的な支援も期待できる、と話していたそうだ。とすると、わからないのは、二千万以上の札束が詰まった金庫の鍵を確保したも同然の男が、どうして二百万フランの身代金目的の誘拐なんかを企てたのか――。一方そのころモガール警視は、聖ジュヌヴィエーヴ学院の少女失踪事件について、新たな情報を得ていた……。
早っ! 三回で連載終了。それでも一回分の掲載量が多いので、加筆しなくても1000枚くらいの長篇にはなるのだろうか。警察の推理・新たな証拠・ナディアの推理・カケルの推理等々、新たな証拠の出現で事件の様相ががらりと変わったり、筋の通って見えるナディアの推理にも一つ決定的な穴があったり、このどんでん返しの連続はやっぱり楽しいなぁ。しかもどの解決もけっこう説得力があって魅力的。そして最後には「証拠」の真偽をめぐるやりとりが。話の流れから言って納得せざるを得ないものの、釈然としない。そのまま「推理小説」に当てはまるわけではないにしても。「歴史」を本質直観することや、バスチーユ襲撃の群衆についての議論の果てに。
「本格力」(第12回)喜国雅彦
今回はリレー長篇総ざらい。
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