『英草紙/西山物語/雨月物語/春雨物語 日本古典文学全集48』真加村幸彦他校注(小学館)

『英草紙』
 

『西山物語』

 古語の理解の助けとすべく、古語をまぶして書かれた異色作。現実の妹殺し事件を題材に、因果をからめていかにも読本らしく伝奇小説っぽく仕上げられています。

 親の許さぬ恋にいつまでもこだわる妹を、兄が斬り殺したという事件。そこに、楠木正成から奪った家宝の刀を巡る逸話、七郎と八郎による剣術試合の勝負、二人の恋を許したくても許せぬ道理、などで脚色して

 なにせ奈良時代の語彙がぽんぽん飛び出すので、頭注・現代語訳は欠かせません。『雨月物語』になると漢文学の教養も必要だからそれはそれで頭注・現代語訳が欠かせないし、江戸時代の作品とはいえ決して読みやすい作品集とは言えません。
 

雨月物語
 

「白峯」
 ――西行が旅の途中で白峯にある崇徳上皇の御陵を通りかかり、歌を供えたところ、崇徳院の怨霊が現れた。恨み祟り世の乱れを予言する崇徳院に対し西行は、仏道と倫理を諭すものの……。

 あれこれ理屈を説いたものの、最後は歌の徳でめでたくおさまるという、古典的な話のようです。それにしても西行の影が薄い。実際にその歌を詠んだ、という事実がなければ誰でもいいような透明度。理屈も何だか破綻しているしなあ。怒りに燃える崇徳院の描写が印象に残ります。
 

「菊花の約」
 ――学者・左門は、旅の途中で病に倒れた武士・赤穴を世話するうち、兄弟の契りを結んだ。やがて病も癒え、ひとまず帰るがかならず約束の日には会いに来ることを約して、赤穴は立ち去った。約束の日の夜、待ち続ける左門の前に……。

 その日に絶対に会わなきゃいけないという必然性に乏しいような。戦国だし武士だから自由に会うのは難しいというわけでもないようだし。学者と武士だからお堅いということなのか。武士道を語るための無理矢理な方便のようだ。
 

浅茅が宿
 ――怠け者のせいで家を傾けた勝四郎は、都に出稼ぎに行くことにした。秋には戻ると妻に約束をして。だがやがて戦争が起こり……。

 パターンとしては「変わらぬ姿で」だったりするところを、声も変わり黒く汚れて――というところに、本当に生きていたんだ!と思わせる効果があり、ここは感心。いきなり冒頭から、勝四郎は駄目人間だったんだというのがわかって意外でした。しかも怪談であれば宮木の死の事実が明らかになった時点で終わってもいいのに、その後に翁と勝四郎の二人で好き勝手に宮木を論評してすべてをぶちこわしてます。
 

「夢応の鯉魚」
 ――僧侶興義は本物かと紛うような絵を描いた。興義はある日人事不省に陥ったが、数日して息を吹き返した。そして弟子たちに、自分が魚となって釣られた夢を語るのだった。

 詳しくはわからないけれど、おそらく「描いた魚が泳ぎ出すほどの名人」譚と「魚になった夢」譚の二つが組み合わされているのだと思います。必然性はないんだけれど何となく説得力はありました。
 

「仏法僧」
 ――夢然と作之治の親子は高野山詣でに出かけたが、あいにくと宿がない。仕方なくお堂に泊まっていると、仏法僧の鳴くのが聞こえた。興を感じて一句詠んだところ、どこからか武士の一団が現れて……。

 これまではわかりやすいテーマみたいなものがありましたが、これはよくわかりませんでした。亡霊たちと出会ったというてらいのない怪奇譚でしょうか。
 

吉備津の釜
 ――釜が鳴れば吉、鳴らなければ凶。鳴ならなかった釜のお告げをよそに、井沢は磯良と結婚した。だがそこは生来の浮気者、遊女の袖に惚れ込んだ挙げ句に妻を置き去りにしてしまった。だがやがて袖が病に倒れ……。

 頭注にも述べられていましたが、何といっても「髻」に尽きます。単純に祟り殺さずに、墓場で仕込みをしてトラップをかけてゆく暗い情熱に恨みの深さがうかがえます。
 

「蛇性の婬」
 ――豊雄は田舎ではついぞ見かけたことのない美しい娘と契りを結び、形見に刀をさずかった。しかし翌日、神社の宝刀を盗んだかどで捕えられてしまう。豊雄の証言をもとに召捕人が娘の家に入ったところ、不意に雷が落ち屋内が散乱し、娘の姿は消えていた。

 冒頭は何だかずいぶんとファンタジック。途中から道成寺の話になるのですが、もともと蛇神である化物が娘に化けて美しい男を狙っていたという全然ちがう話に。では道成寺伝説に描かれている情念の強さがどう表現されているかというと、この作品では再度の怪のパターンが用いられていました。さすがにたたみかけられるように来られると、読んでてどきっとしました。
 

「青頭巾」
 ――快庵禅師が宿を求めたところ、鬼に間違われた。聞くところによると、近くの寺の僧侶が稚児を愛するあまりにその死体を口にし、鬼になったのだという。

「貧福論」
 ――金の精と金について問答する。

春雨物語

 「二世の縁」は『新説百物語』の「定より出てふたゝび世に交はりし事」と同じ話でした。

 「死首の咲顔」は『西山物語』と同じ事件を小説化したもの。頭でっかち秋成。

  


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