『黄表紙・川柳・狂歌 日本古典文学全集』

金々先生栄花夢恋川春町作・絵

 餅ができるのを待って寝込んでいるうちに見た邯鄲の夢。有名な話だけれど、改めて読むとストーリー自体はどうってことない。「うっちゃっておけ、煤掃に出よう(放っておけ、大掃除のころには出てくるだろう)」など、当時の流行りや生活をうかがえるのが楽しい。
 

「親敵討腹鞁《おやのかたきうてやはらつづみ》」朋誠堂喜三次作/恋川春町

 かちかち山の後日譚。殺された狸の子どもが兎に復讐しようとする。かちかち山は兎の機知が光る話ですが、本作にはそういうところはなく、猟師や狐や爺婆の息子らいろいろな登場人物の思惑が絡み合ううち上手く納まるような内容です。語源由来ネタが多い。
 

「無益委記《むだいき》」恋川春町作・絵

 未来記のもじり。当時の知識がないとさっぱりなので、むかし読んだときにはさらっと読み飛ばしたのですが、註釈があると、絵で見る川柳みたいで面白い。「初鰹が十二月に出るようになる」あたりならまだ理屈が通っていますが、「夏に大寒が来るので汗がつららになる」となるとシュールでナンセンス。
 

「虚言八百万八伝《うそはっぴゃくまんぱちでん》」四方屋本太郎作/北尾重政画

 嘘ずくめの序文がいちばん面白い。本文は嘘というか法螺話。北国では凍った酒の棒を売ってる、とか、大蛇を捕まえる方法、とか。頭注ではなぜか註釈だけでなく内容の面白さにまで踏み込んでお笑い審査員化している勇み足。きっとおやじギャグラーの血が騒いだのでしょう。
 

「景清百人一首」朋誠堂喜三二作/北尾重政画

 景清を指名手配するものの、なかなか見つからない。みんな景清っぽいファッションだったり、力比べをさせると景清ならぬ凡人はずるずると引っ張られるだけだったり、やっと見つけた景清は芝居の景清の演じ手(の物真似)だったりと、歴史や芝居をネタに。
 

「江戸生艶気樺焼《えどうまれうはきのかばやき》」山東京伝作/北尾政演(山東京伝)画

 もてないぼんぼんが色男を目指して奮闘する。嫉妬されるとなんだかモテた気になるので嫉妬深い女を探して妾にしたり、親の金目当てでごますりされるのが嫌なので勘当してくれろと親に頼むものの断られて妥協案として期限つきで勘当されたり、おバカなアイデアが次々と繰り出されます。豆しぼり君みたいな挿し絵がツボに入りました。
 

「大悲千禄本《だいひのせんろくほん》」芝全交作/北尾政演(山東京伝)画

 あまりに不景気のため千手観音が千の手を貸して貸し賃を稼ごうとする。手を切られた茨木童子や、手のない(手練のない)遊女や、無筆など、手が欲しい人々がどっと集まって手ずくしのオンパレード。千本すべて出払った折りも折り、千手観音の利益で武勲を挙げた田村麻呂が千本借りに来たからさあ大変、あわてて回収。てててんてん、と完璧な結末です。
 

「時代世話二挺皷」山東京伝作/喜多川行麿画

 七人の影武者がいたという平将門に対し、藤原秀郷が八づくしでやり込める。それを読むだけで面白いのですが、田沼政権をさり気なく批判しているのだそうです。
 

「鸚鵡返文武二道」恋川春町作・北尾政美画

 さまざまな武芸の達人に教えを請う。牛若丸に習うためにわざわざ天狗役をこしらえたりといった、原典ちゃかし。田沼政治を風刺しているのだそうです。
 

「遊妓寔卵角文字《じょらうのまことたまごのかくもじ》」芝全交作/北尾重政画

 『大学』の文章をもじったもの。今でいうなら替え歌みたいなでしょうかね。

  


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