『The Victorian Chaise-longue』Marghanita Laski,1953年。
古道具屋で見つけたヴィクトリア朝の寝椅子で眠り、目覚めるとそこは19世紀だった。家にいるはずの夫も看護婦もなく、見たこともない人々からメラニーはミリーと呼ばれた。「現代」に戻ることはできるのだろうか……。アデレイド様と呼ばれる女はとりつく島もない。牧師さんなら話を理解してくれそうだが――。
肺病を病み、子どもを産んだばかり等々、メラニー(メリー)とミリーに共通点は少なくありません。にもかかわらず、子どもを取り上げられた理由など、大きな違いもあります。というのも「ひとりの男を愛し、いっぽうで浮気もして、ちょっとお酒を飲んだ」ことでも「慣習が違うからなの、罪も時代によって変わる」世界だからです。
タイムトラベル(?)という極端な設定を用いて、ほとんど同じ境遇の女性を二重写しにすることで、19世紀と20世紀(の女性の立場や意識)が重ね合わせられています。
さらには、何度か繰り返される「たった一度しか起こらない」という発想に目を惹かれます。「(メラニーが)家で幸せに過ごしている時点で、ミリー・ベインズはこの恐ろしい午後をとうの昔に経験していたのですね、混乱した状態でここに横たわり、事情を説明しようとするけれど、誰にも信じてもらえない――」という理解は、下手なSFよりもよほど合理的で現実的で、容赦ありません。
「ヴィクトリア時代がどんなものだったか、わたしはもちろん知っている。とはいえ、実際にいあわせてみると、全然ちがう。こういうものなんだわ」という陰々滅々なヴィクトリア朝でした。
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