『メアリー・スチュアート』アレクサンドル・デュマ/田房直子訳(作品社)★★★☆☆

 『Marie Stuart 1587』Alexandre DUMAS,1840年

 スコットランドの「悲劇の女王」メアリー・スチュアートの評伝(小説)。

 ですがなにしろ著者がデュマなので、政治的な意味がどうこうということはほとんど描かれず、あるときは恋愛、あるときは誇り、あるときは嫉妬、あるときは野心、あるときは信仰……と、焦点の当てられ方がそのときどきでころころと変わり、バランスもまとまりも非常に悪いので、メアリー・スチュアートスコットランド史について知ろうと思って手を出してはいけません(^_^;。

 だけどさすが最大瞬間風速は、デュマなんですよねえ。

 たとえばダグラス家の次男ジョージが囚われのメアリーに向かって、七年越しの思いを打ち明けるところ。デュマならではの最高のメロドラマでした。あり得ないでしょう、ふつう(^^)。

 あるいは、自らの恋愛感情に素直なメアリーは、夫王の死後は愚かな恋愛・結婚を繰り返し、そのたびにメアリーの周囲で暗殺が引き起こされます。ここらへんはもうやりたい放題というか、政治どころか恋愛すら描かれず、ほとんど「ムカついたから殺した」的な仁義なき世界でした。しかしこういう理屈ぬきなのがデュマのいいところ。殺し合いなのに、何だか子どもが遊んでいるみたいで楽しい。

 最後には、カトリック信仰と友情にもとづいてとうとうと述べ立てるメアリー。確かにそれまでも友情(愛情)に厚いところは描かれていましたし、カトリックプロテスタントの対立についても触れられていましたが、信仰心についてはけっこう唐突な印象は否めません。しかしそれでもほろりと感動的。

 というわけで、メアリー・スチュアートという人の実像は、誇り高いということ意外にあまり伝わって来なかったのですが、いろいろと印象に残るシーンの多い作品でした。

 ところで本書が『Crimes célèbres(有名な犯罪)』というシリーズものの一篇だということは、ダーンリー卿暗殺(おそらくは愛人との共謀)がこの本の中心なのでしょうか。
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