『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート/東野さやか訳(早川書房ポケミス1836)★★★★☆

 『The Last Child』John Hart,2009年。

 早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品と銘打って、ポケミス版と文庫版の同時発売。値段は一緒。ポケミス版は記念の金色。

 誘拐されたまま一年経っても行方不明のままの妹をさがすため、ジョニーは太古の神に祈りを捧げ、性犯罪者の住処を巡視する毎日をつづけています。

 父親は責任感に耐えきれず失踪、母親のキャサリンはひたすら自分を守るために夫と息子に当たりドラッグに溺れる日々、地元の有力者ケン・ホロウェイは父親の失踪後に美貌の母親を追い回し暴力をふるい、親戚のスティーヴおじはホロウェイに雇われているため見て見ぬふり……担当刑事のハントだけはジョニー一家を心配して今も見守っていますが、一年経っても妹のアリッサを見つけられなかったためにジョニーはあまり信用していません。ジョニーの捜査に協力してくれるのは、臆病だけれど親友のジャックでした。

 あてにならない大人たちを尻目に独自に活動をつづける少年たちの姿は、少年ものの王道冒険小説のようなけなげさとすがすがしさに満ちています。

 やがて偶然オートバイ〈事故〉の現場に居合わせたジョニーは、瀕死のライダーの口から「あの子をみつけた。連れ去られた女の子」という言葉を聞かされ、一年のあいだ進展のなかった事件は大きな転機を迎えます。折りしもまた新たに女の子の誘拐事件が発生したばかりでした。

 被害者は「どこ」で「誰」を見つけたのか。現場に現れた人影は殺人犯なのか。現場付近でジョニーが見かけた大男こそ誘拐殺人犯なのか。こうして刑事たちとジョニーそれぞれが捜査をはじめました。警察は目先の容疑者を追って、ジョニーはまだ生きていると信じるアリッサを追って。

 この物語を大きく貫いているのは、「信頼」(そして「臆病」)です。事件の真相も、真相が明らかになるきっかけも、友人との信頼関係が重要な意味を持っていました。がっかりしないために最初から諦めている母とは違い、妹はまだ生きているとジョニーが信じ続けるのも「信じ頼る」ことでしょう。ジョニーの父親も、家族の信頼を裏切るような人物ではありませんでした。容疑者を撃ち殺してしまった相棒のヨーカム刑事のことも、ハント刑事はひたすら信じ続けています。誘拐事件でばらばらになってしまった人間的に弱い母親とジョニーがあまりにもあっさりと信頼を回復したり、誘拐事件の捜査でばらばらになってしまったハント刑事と息子がしっかり信頼し合っていたり、ちょっと好都合な信頼関係も目立ちましたが。

 途中で出てくる郡保安官が警察署長と対等な感じでエバっていて、ちょっと不思議な感じがしました。保安官というと西部劇のイメージがあるので田舎のお巡りさんという感じがあるのですが、どうやら違うみたいですね。知事や町長に近いのかな。

 十三歳の少年ジョニーは、犯罪歴のある近隣の住人たちを日々監視していた。彼は、一年前に誘拐された双子の妹アリッサの行方を探しているのだ。美しい少女だった妹は何者かに連れ去られたが、警察はいまだ何の手がかりも発見できずにいた。ジョニーの父親も、娘が誘拐されてまもなく謎の失踪を遂げていた。母親は薬物に溺れるようになり、少年の家族は完全に崩壊していた。ジョニーは学校を頻繁にさぼり、昼夜を問わない危険な調査にのめり込んだ。ただひたすら、妹の無事と家族の再生を願って……英国推理作家協会賞最優秀スリラー賞受賞作。(裏表紙あらすじより)
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