『ミステリマガジン』2011年7月号No.665【特集 ゲゲゲのミステリ 幻想と怪奇】

 先月号のコナンに続いて今月号はゲゲゲ。とは言っても水木しげる特集ではなく、水木作品とこじつけるのに四苦八苦の「幻想と怪奇」特集です。

「おなじみの悪魔」ヘンリイ・カットナー/中村融(The Devil We Know,Henry Kuttner,1941)★★★★☆
 ――現れた悪魔アザゼルは、魂をもらうつもりはないという。出世を望み、また浮気相手のダイアナから脅迫されていたカーネヴァンは、半信半疑ながらもアザゼルの言葉を受け入れた。すべては順調に思えたが、やがて目の隅に黒い楕円形が現れて……。

 『悪魔くん』と悪魔つながり(^_^;。「あの世」という漠然とした共通概念の裏を掻いて忍び寄る恐怖。訳者が中村氏なのも納得の作風でした。
 

「事前通告」リチャード・マシスン/風間賢二訳(Advance Notice,Richard Matheson,1952)★★★☆☆
 ――もう一言も書けない。干上がった。わたしのでっちあげたことが実際に起こっているとは! 火星人の宇宙船が月のすぐ近くの領域に……。

 「不死鳥を飼う男」「手袋の怪」つながりの「書けない作家」。作家にとって重要なのは、地球のことより何よりも、「そのこと」でした。
 

「魔法の店」H・G・ウェルズ/宇野利泰訳(The Magic Shop,H. G. Wells,1903)

 変てこな商品つながり。ウェルズ短篇集より再録。
 

「漂流船」ウィリアム・ホープ・ホジスン/小倉多加志(The Direlict,William Hope Hodgson,1912)
 ――漂流船に乗り込んだ語り手たちを待っていたものは……。

 「太郎岩」と海つながり。むしろ鬼太郎シリーズの「人食い島」を連想しました。短篇集『海ふかく』より再録。
 

「ミステリ的水木作品ブックガイド」
 

「女にはわからないこと」エルモア・レナード小田川佳子訳(Elmore Leonard,1955)
 ――ピートが入れられた留置場には悪名高いオビー・ウォードが一緒だった。夜警のキャスは何かとオビーを軽視したが、保安官のジョン・ボイントンはそれほど楽観視できなかった――。

 「私のアメリカ雑記帖」との連動企画の西部小説。現代が舞台のチンピラ小説では、死体や雇用の問題が出てきてこうはいかない。自由です。何だろう。凡人がヒーローになれる世界。
 

「最後にもう一度、笠井潔氏に 歴史的事実と論理の問題について」権田萬治
 

書評など
 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作『鬼畜の家』(深木章子)、獅子宮敏彦天明龍騎』、ショーン・タン『アライバル』、ラファティ『翼の贈りもの』。シルヴィア・アヴァッローネ『鋼』はまもなく刊行予定だそうです。

「ミステリ・ヴォイスUK 第34回 アガサ対ドロシイ」
 P・D・ジェイムズとジル・ペイトン・ウォルシュ(セイヤーズ未完作品の補筆者)が、アガサ側とセイヤーズ側に分かれて討論するイベント。こういう企画は楽しそうですね。
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