『妖女のねむり』泡坂妻夫(創元推理文庫)★★★★★

 1983年発表。

 古紙収集のバイトをしていた柱田真一は、雑誌の山のなかに樋口一葉の自筆手稿らしき反故を発見する。真贋の見極めと残りの手稿を求めて、真一は反故の出所であるらしい寺を訪れるべく、諏訪に旅立った。列車で出会った少女に惹かれた真一は、思わず「どこかでお会いしましたね?」と声をかけていた。連れの女性にマキと呼ばれていた少女は、真一をじっと見つめて「もう一度、言って」と耳を傾けた。「……残念だけれど、思い出せないわ」。思わぬ反応に戸惑った真一だったが、麻芸《まき》は立ち去ってしまった。寺を訪れた真一は、住職から反故の出所は著名な日本画家の大日向雅岳だと告げられる。翌日雅岳に会うことにした真一は、その日は名物の桜を見ることにした。「あなたも思い出したのね」そこには麻芸も来ており、謎めいた言葉を口にした――。やがて麻芸の口から、自分は西原牧湖という女の生まれ変わりで、真一こそ牧湖の恋人である平吹貢一郎の生まれ変わりなのだと聞かされる。初めは半信半疑だった真一だが、麻芸と瓜二つのボッティチェルリの絵画を見たり、牧湖の父親の証言が吹き込まれたテープを聞くうちに、次第次第に転生を信じ始めていた。自分たちは悲恋の恋人たちの生まれ変わりなのではないか――。突然、中学のときのことを思い出した。山で遭難したとき、女性に助けられたのだ。すぐに寝込んでしまったので夢なのか現実なのかはっきりしなかったが――その女性には、麻芸と同じように、右の額に三つのほくろがあったのだ……。

 どう考えても本当に生まれ変わりとしか思えないような証拠を次々と突きつけられて、二人の「前世」をめぐる死の謎にすっかり心を奪われてしまいました。幸せを誓って生まれ変わる恋人たちの悲恋が気になって仕方がないところで、はからずも昔の悲恋と重なるように悲劇が発生――。真一ならずとも、運命を感じずにはいられませんでしたが――。

 そこからが泡坂マジックの真骨頂。幻想として処理するしかないようにも思えた出来事が、あれよあれよという間にひっくり返されてしまいます。偶然と思えたものが偶然の結果ではなく、必然の原因からもたらされる結果だったのだとわかる瞬間には眩暈を覚えました。「似ている」ことや「覚えている」ことをめぐる逆転の発想は当然すぎて盲点になっていて、思わず膝を打ちました。

 しかも相変わらず伏線が尋常じゃなく大胆かつ美しい! 特に最初と最後の美しさは特筆に値します。

 ほかにも読み返してみると、乾山の皿のことが明らかにされるのが49ページ。一葉の手稿のことが明らかにされるのが211ページ。こうやって抜き出せば、なあるほどと思うのですが。だけどこの150ページほどのあいだに生まれ変わりにすっかり浸からされてしまってるんですよね。しかも直前に事件が起こってしまって、手稿どころではないですから。巧いなあ、ほんとうに。
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