テリー・ビッスン(Terry Bisson)の日本オリジナル短篇集第二弾。
「平ら山を越えて」(Over Flat Mountain,1990)★★★★☆
――8年にわたる地殻変動で生まれた巨大な山〈平ら山〉、大気もない頂上を越えて荷を運ぶトラック乗りが拾ったのは、ヒッチハイクで山を目指すひとりの少年。垂直に切り立った山腹の先で、ふたりが目にした風景とは――(帯紹介文より)
山越えする者などほとんどいない、空気が薄い(酸素装置が必要)、突然変異のロブスターがいる……等々といった点を除けば、ヒッチハイクで拾った(恐らく)家出少年とともに旅をするという、いたってまともな何の変哲のないロード・ノヴェルです。三十年前、まだ平ら山がなかった少年のころの自分もしていたヒッチハイクを運転手が重ね合わせて追体験する――という設定からしてロード・ノヴェルのツボでした。
「ジョージ」(George,1993)★★★☆☆
――男の子ですよ、と看護師はいった。申し分なく健康で、体重は十一ポンド四オンス。体重の大部分は、翼の重さだという。
異常なできごとに対して当然そうあるべき模範解答をする医者たちを笑い飛ばすかのような結末。深刻な親の決断すらも回避される、言うことなしのハッピーエンド。
「ちょっとだけちがう故郷」(Almost Home,2003)★★★★☆
――競技場にある白いフェンス。「もしかしたら、翼かもしれない」「なんだって?」「アーケードが胴体、尾翼は公衆トイレだよ」「かもね」とバグはスタンドをおりて「でもそろそろ、釣りに行く時間だよ」。バグと別れたトロイは、いとこのチュトに会いに行った。チュトは特別な医者に通っている。
「オールモスト・ホーム」改題。ふとした拍子で飛行機を見つけた少年が、冒険の旅に出る……。――ように見せたレクイエム。トロイには別人の母親がいてバグの家にはもう一人のバグがいるのに、チュトだけが問題なく存在できることの意味に気づくべきでした。
「ザ・ジョー・ショウ」(The Joe Show,1994)★★★☆☆
――「もしもし」「わたしは、きみのTVを乗っとった一時的電子的存在だ。わたしが存在するのはわたしの創造主と、きみたちの大統領のあいだをとりもつことだ」
意識を集中するために血液を海綿体に集中させてくれという、めったにないくらいかぎりなくおばかな話。
「スカウトの名誉」(Scout's Honor,2004)★★★☆☆
――七月十二日の朝、以下のメッセージが研究室のコンピュータに届いた。「月曜日。うまくいった。計画通りに。NT居住地までは狭い谷が一直線にのびている。煙が見える。予想外だ。まだHSの脅威にさらされていないのかもしれない」。いたずらだろうか。
これは『SFマガジン』2010年1月号で既読。
「光を見た」(I Saw the Light,2002)★★★☆☆
――光があった。三つ連続でまたたいて――トン・トン・トン。三十年も人がいなかった月面に。わたしがドアに施錠したのに。ファースト・コンタクト。タブロイド紙は憶測し、識者は知ったかぶりし、UNASAはふたたび遠征隊の準備にかかった。
月面のピラミッド型建築。それは人類とある存在との――。「彼ら」や「あたしたち」という代名詞だらけの台詞の応酬が何だかギャグみたいでばかばかしい。そこに老エンジニアの懐古や飼い犬との絆をからめたおかげで読みやすくなってます。「ヴィシュヌの母親は、ジュリア・ロバーツのアカデミー賞受賞スピーチのあいだに妊娠したのだ」というのがよくわからない。
「マックたち」(macs,1999)
『90年代SF傑作選(下)』で既読。
「カールの園芸と造園」(Carl's Lawn and Garden,1992)★★★☆☆
――仕事をした最後の週は(いつもどおり)緊急事態ではじまった。「緊急度4だ、ゲイル」彼はあたしの名前をちゃんと発音できたためしがない。そこの芝生は緑ではなく、黄緑色だった。この界隈では唯一の有機芝だ。いまは見るからに命運がつきかけている。
「庭の管理」と「緑の保存」が等しくなりつつある未来。プロフェッショナルと少女のコンビによる『レオン』のような庭師稼業、そして緑そのものの消滅が描かれます。
「謹啓」(Greetings,2003)★★★★☆
――謹啓トマス・クラーマン殿。あなたはサンセット旅団への入隊を命じられました。つきましては来る日時にカスケード・センターへ出頭願います。世界的人口過剰により先進国では七十歳以上のなかから犠牲となる人間が選ばれていた。とうとうトムのところにも、そしてクリスにも……
描かれている法案の表向きのきれいごとがすんごくアメリカ臭くて、実際にあってもおかしくなさそうないやらしさ。そんななかでイデオロギーに拠らずにみずからの手でみずからの生死を選ぶ老人たちの、『イージー・ライダー』か『俺たちに明日はない』か、といった生き方。
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